一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.116 「はじまりはヒップホップ」

私はまだ94歳じゃない。なのに守りに入っていたかも。

ヒップホップでベガスに殴りこみ!
おばば、おじいたちのチャレンジに号泣!!

人は死ぬまでどう生きたらいいのか? それを教えてくれる映画である。

平均年齢83歳、最高齢94歳というお年寄りたちが、ヒップホップダンスにチャレンジ。ラスベガスで開催されるヒップホップの世界大会に招待されてパフォーマンスを披露するまでを追ったドキュメンタリー。
ニュージーランドのワイヘキ島という小さな島からやってきたおばばとおじいたちの果敢な挑戦に予想外の号泣! 泣きまくった一本となった。

映画は白髪おかっぱ頭のおばばが巧みにピアノを弾くシーンから始まる。彼女がワイヘキ島へ来た当時の話や、夫との遅い出会いを語っていく。彼女カーラは94歳。
なにか、とても情緒溢れる「寂しさ」のようなものが画面から立ち昇る。

93歳のテリーは、認知症で施設に入る夫のことを「今もスマートで美男子、全然変わらないわ。パーフェクトよ」と結婚して70年たっても初恋の夫にぞっこんだ。震える手を押さえながらマスカラをつけて、ブルーのアイシャドー、いつも綺麗にしている。

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悲しいことの方が多かったおばばの人生
それはマネージャーも同じ

何人かのおばばたちの歴史を紐解きながらヒップホップダンスを練習する様子を映画は静かに追う。当然なのだが、長い年月を生きてきた彼らには悲喜劇、いや、悲しいことの方が多い人生で、しみじみしてしまう。
なんだかすごく切なくなってきて、途中から涙がこみ上げてきた。

悲しいことが多かった人生では、おばばたちをダンスに誘った振り付け&マネージャー担当の若いビリーの過去もそう思わせて、ここでも泣けてしまった。

「祖母とずっと幼い頃に暮らしていた。祖母との時間はカップの擦れ合う音と時計の針の音しかなかった。そこでは理不尽に殴られることも怒鳴られることもなかった。お年寄りが好き」。

ビリーはダンスだけじゃなくておばばたち足の爪を切ったり、食事の用意をしたり、日常的にも彼らを支えている。ダンス指導中も決して声を荒げたり、イライラしたりせずに常に笑顔とユーモアたっぷりだ。

「お年寄りが好き」。素敵な言葉だ。私は? 私も好きかもしれない、と思い至った。しかし、同時に嫌いでもあるのだ。ここらへんは複雑な想いがある。頭の固い年寄りは大嫌いである。ここで登場するお年寄りは皆、頭も心も柔軟である。
それは素晴らしいことだ。

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大盛り上がりのダンスシーン!
観客の愛溢れる温かさにさらに感動!!

彼らがダンスを披露する舞台がまた感動だった。ダンスは唖然(笑)だけど(いやがんばってます、凄いです)、観客の反応が凄いんである。もう総立ちでやんやの拍手喝采! 大フィーバー! ものすごい盛り上がり、ものすごい受け入れ方、リスペクトぶり。もうこちらは涙ボロボロ! これだけの「愛」があるか? と思うような温かさが溢れていて(日本じゃこうはいかないのでは?)、涙が止まらなかった。でも、それはおばばたちの姿に感動したからってことを忘れてはいけない。

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年老いてもこうありたい、こう生きる!
守りに入っていた自分に喝っ!

「私の前には輝く未来が待っているのよ」。これ、若者の言葉じゃないんです。94歳になるおばばの言葉なんです。
歳は関係ない。いくつになっても社会とつながっていたい。何事にもチャレンジしたい。特に若い人と交流したい。家の中で誰も会いに来てくれない、と泣くのは嫌。外へ行って人とつながりを持ちたい……。
おばばたちの言葉は死を迎える時までいかに生きるべきか? と教えてくれる。

私はまだ94歳じゃない。なのに守りに入っていたかも。そう、私の前には輝く未来が待っているんだもの!! 眼から鱗の、みなぎる力をもらえる傑作ドキュメンタリーである。全体を貫く映像や語り口の品の良さも特筆だった。

さて、おばばたちのダンスチーム「ヒップ・オペレーション・クルー」は現在も各地で公演活動を続けているそうである。もう、びっくり! だ。

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監督・脚本 ブリン・エヴァンス
出演 ヒップ・オペレーション・クルー ビリー・ジョーダン デザイア・ダンス・アカデミー
94分

★『はじまりはヒップホップ』
10/1(土)より、シネマート心斎橋にて公開
(c) 2014 Rise And Shine World Sales / Inkubator Limited / photo_Ida Larsson

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