モノを浄めて食材にする神聖な儀式庖丁式とは?

現在の神社ではお供えをしているわけですが、かつて、日本には「神様とされていた人物が存在していました」。それは「天皇」。現在では日本の象徴的な存在とされていますが、それまでは天皇は神と同等の存在、すなわち「現人神(あらひとがみ)」であったのです。

庖丁式の起源については諸説あるのですが、もっとも古いものとしては西暦711年に「景行天皇」が安房の浮島という場所を訪れた時に「磐鹿六雁命(いわかむつかりのみこと)」という人物がカツオと蛤を捕って、料理したものを献上したところ、天皇がとても喜んで磐鹿六雁命を天皇の食事係に任命し、その子孫までも常に食事係を行うようにと伝えました。この時の調理法が洗練されたものが庖丁式だというのです。

他には西暦859年に「清和天皇」が食事を「式」、すなわち儀式に則って行うようにするようにという命令を出して、それによって庖丁式が成立したというものや、西暦886年ごろに「光孝天皇」が料理好きであり、自ら包丁を使って、宮中行事の中に料理を取り込むことで庖丁式が生まれたというものもあります。どちらにせよ、成立には「天皇が深く関わっていた」ということは事実のようです。

 

【一切食材に手を触れずに行う伝統の調理法】

庖丁式の特徴としては、「儀式を行う庖丁人は一切食材に触れない」ということ。長い箸と包丁を使って、魚や鳥などを見事に切り分けて、盛り付けていくのです。

魚の場合は、三枚の下ろすのも、刺身にするのもすべて同じ包丁で行うということもあり、この技術をマスターできれば、「一般的な料理で使われる包丁の技は簡単に行える」ともいわれています。

これは、食材からの穢れを受けないようにするだけでなく、庖丁人の穢れも移さないという意味であり、まさに「神聖な存在へ捧げるものを作る儀式」であるということがわかります。

庖丁式が単なる調理ではないということは、使われる道具からも伝わってきます。食材が盛り付けられる大まな板は、場所によって「五行」「四徳」などといったスピリチュアルな意味合いが感じられる名前がつけられており、その場所にどのように食材を配置するかによって、その料理自体が持つ意味合いが変わってくるのです。

料理人

 

【庖丁式の流れ】

どのように庖丁式が進んでいくかというと、まず食材を調理する前には、生物の死骸である食材を浄めるための、「懸かり」という儀式が行われます。

しっかりと浄められたものが箸と庖丁によって切り分けられていき、骨や肉をまな板の上に並べます。このときも、美しさだけではなく、「どんな意図によってどのような構成にするのか」が決められており、それぞれが「秘伝」となっているのだそうです。

ちなみに、鯉を食材にした場合は「竜門の鯉」「神前の鯉」「出陣の鯉」「梅見の鯉」などといった状況によった構成が存在しており、現在残っているだけでも「40種類以上もある」といわれています。