五感を刺激する映画【心と体と】 〜 生きる痛みと温かさ 〜 

これほどまでに生々しい心と体の痛み、そして人間として生きている温かさを鮮烈に感じた映画は初めてでした。

まるで臭いまでこちらに漂ってくるような錯覚を起こすのは、人間の一番やわらかくて繊細な部分を丁寧に映し出しているからだろうなあ。

誰もが固唾をのんで不器用な二人の行く末を祈るように見守ってしまう。

若い女と中年男 孤独な二人を結びつけたのは【鹿】の夢。

ファンタジックでリアルな愛の物語

2017年ベルリン国際映画祭 金熊賞〈最高賞〉など様々な映画祭で絶賛。
ハンガリーの鬼才、イルディコー・エニェディ氏の【心と体と】がついに日本でも2018年4月14日に公開となる。

舞台はハンガリー、ブタペスト郊外の食肉処理場。
代理職員として新しく配属されたマーリアは人とのコミニュケーションが極度に苦手。
自分からは人に話しかけられず、つっけんどんな業務的な受け答えしかできない。そのうちどんどん職場から浮いていく。
職場の上司、中年男性のエンドレは、独り身の孤独を感じていた。
職場に現れたマーリアを見た瞬間から心を惹かれる。
コミュニケーションを図ろうとするが、うまくかみ合わずもどかしい日々が続く。
そんな二人の距離が近づいたのは【同じ鹿の夢をみた】ことだった。

(『心と体と』メインビジュアル ©2017 INFORG – M&M FILM)

 

愛する恐れと喜び

愛を描いた映画は山ほどあるけれど、この映画がこんなにもリアルに痛みを感じさせるのはなぜなんだ?!

極度にコミュニケーションが苦手な女と拒絶や愛の喪失を恐れる中年男性。
不器用なふたりのリアルな心理描写は、誰もが抱える【愛の古傷】を引きずりだすんだろうなあ。

拒絶される恐れ・失う恐れ・必要とされない恐れ……愛の恐れが引き起こす勘違いやすれ違い、自暴自棄な行動……。
そんな誰もが体験したことがあるであろう恐れや痛みを、強制的に思い起こさせるような力があるんですよね。
もはやセラピーです。
登場人物の目線や息遣い、鼓動、主人公の心の揺れが画面まで揺らす。
そんな細部の表現が、効果を増幅させているんですね。

 

二人をつなぐ【鹿の夢】

美しい静寂な森の中を歩く二匹の鹿。

何度も同じ夢を見る二人は夢を共有していく。

夢の世界である鹿の場面は、とてもリアル。
そして まるで正反対の世界に見える食肉処理場で無機質に捌かれていく牛達の姿。

これには監督のこんな意図があるそう。

『夢の世界にせず、平行する現実世界として書きたかった。夢の中で会っているというファンタジックなものではなく、二人はあくまで2つの現実を生きているのです。鹿たちにとっては食肉処理場で毎日営んでいる、というのが夢なのです。』

二人の2つの世界を五感で体験しているのですね! なんだかVRみたい。

私、個人的には映画の後半、とっっっても痛みを感じる場面があるのですが、これは精神的にも肉体的にも痛いんですね。
でも、その直後のマーリアの行動が、可愛くて、微笑ましくて、一気に彼女が大好きになりました!

完璧じゃない二人だから応援したくなる、自分と重ねたくなる。
恋愛って痛いけど、大事なものを教えてくれる。

映画『心と体と』は2018年4月14日より 新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサにて上映開始です。
『心と体と』公式サイト
http://www.senlis.co.jp/kokoroto-karadato/

 

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(画像提供元・『心と体と』公式サイト/『心と体とfacebookページ)