一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.48 「プロミスト・ランド」

アメリカのエネルギー開発と環境問題
社会派ヒューマンドラマの秀作!

全編のめり込んで観た。そして観終わって久々に熱いものがこみ上げた。それは正義を支持する心、正しいことをする主人公の姿に対する憧れ、また美しい行為、に対しての感動とでも言おうか。体の中をすがすがしい風が吹き抜けるようだった。同時に「いいじゃん、人間て」と思った。
こういう気持ちにさせられる映画、最近ほとんど、ない。

主人公は大手エネルギー会社のエリート。彼は今日もパートナーと田舎町へ赴き、シェールガスの採掘権の契約を結ぶ仕事に勢を出す。相手は農業での低収入にあえぐ農場主たちだ。主人公は彼らに救世主のように歓迎される。しかし、町民集会で老齢の高校教師から環境問題について言及され、好意的だった町民たちが不安に駆られ風向きが変わりだす。そこへ追い討ちをかけるように環境活動家を名乗る男が乗り込んできて、町民たちに採掘による環境被害の体験談を話し心をつかんでしまう。焦った主人公たちだったが・・・。

リアルで周到な脚本はマット・デイモン作
寸分も飽きさせない展開に魅入る

町に主人公が乗り込むところから、良い。町のダサい雑貨屋(なんでも置いてある)でブランドもののスーツをネルシャツに、革靴をワークブーツに履き変える。パートナーと店の品揃えに悪態をつき、軽口をたたきあう。すごくリアルな会話で、むちゃくちゃ面白い。この町の様子が分かるし、主人公たちのキャラクターや考えも垣間見えるし、彼らの巧妙な営業姿勢も見てとれる。取材が行き届いた脚本でユーモアのセンス溢れる、上手い本だ。脚本は主人公を演じるマット・デイモンと環境活動家役のジョン・クランスキーの手によるもの。そして監督はガス・ヴァン・サントときた。マットとは名作「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」でタッグを組んで以来17年ぶりの共作となる。
堅実なヒューマン・ドラマはこんな風に全編リアルに時にスリリングに展開し寸分も飽きさせない。

主人公の決断に私たち日本人も
襟を正し決断していかねばならない

かつて自分も農業地帯の出身だったという主人公が、農場経営に行き詰った町民たちに良いことをしていると自信満々だったのが、突然環境問題で鼻をへし折られる。そして、ある事実を知り、自らの出自に立ち返り重大な決断を迫られる。クライマックスでのパートナーの言葉が耳に残る。
「たかが仕事よ」。
でも、たかが仕事、されど仕事。主人公はその、選択しかできなかったのだ。たぶん。じゃないと人格崩壊。明日から生きていけなかったのだろう。自らの信条に照らし合わせて。
人間生きてたら毎日小さな決断の日々だけど、時々大きな決断を迫られることがある。そこで何を選ぶか? 自分の全て、生きてきた全てが出ることがある。まあ、何を選ぶかは決まってるんだけど、その時は迷うよね。
でも、何を選んでも間違いではないのだと思う。修正はされる。

この映画は、アメリカの問題を描いているけれど、それはそのままこれからの日本にも当てはまる問題で、そこらあたりも深く考えさせられる。さて、私たちは
こういう上手い話を持ってくる敏腕営業マンに対してどう対処すべきか? 環境活動家に対しては?

すがすがしい気分になりながら、たとえ主人公は去っても、また同じような営業マンは現れるのだ、と思ったら少し暗い気持ちになった。それが、この映画の素晴らしいところだとも思うのだが。

■8月22日(金)~全国ロードショー
監督 ガス・ヴァン・サント
脚本・出演 マット・デイモン ジョン・クラシンスキー
出演 フランシス・マクドーマンド ローズマリー・デウィット ハル・ホルブルック タイタス・ウェリヴァー
■106分