一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.29 『光にふれる』

台湾の盲目のピアニスト、ホアン・ユィシアンの実話
本人が見せた好演

盲目のピアニストと言えば日本では辻井伸行さんが有名だが、台湾でも有名な盲目のピアニストがいることをこの映画で知った。
ホアン・ユィシアン。
彼の実話を基に描かれた本作では、ユィシアン自身が主人公を演じている。演技することは初めてだったそうだが、難しかったと言いつつも、控えめな演技とやはり素晴らしいピアノの音色は胸を打つものがあった。

映画はユィシアンが田舎の両親のもとを離れ、一人で台北の音楽大学に入学するところから始まる。ユィシアンは幼い頃にコンクールで言われた中傷にとらわれ、表舞台に立つことを避けるようになっていた。大学入学は心配した母親による配慮だったが、都会での慣れない生活は彼を大いに戸惑わせた。しかし、踊ることを渇望しながら一歩踏み出せない少女や、陽気なルームメイトとの出会いでユィシアンの学生生活は一変していく……。

 

障害者は過酷な学びを課して生まれてくる
同時に健常者の学びも存在する

盲目の才能あるユィシアンに対する音大生の嫉妬が絡んだ対応や、盲目の人が一番嫌う、突然ぶつかってこられること(これは目が見えても嫌だよね)によってユィシアンが軽くパニくる描写など、興味深い。なるほど、と思う。障害を持った人は過酷な学びを自分に課して今生に生まれてきたと言われるけど、ユィシアンもそうなのだろう。また、障害者の生活上の細かい支障を知れることは私たち健常者の学びでもある。そういう点でも見ごたえのある映画だ。

「あなたにとって夢中になれることは何?」
と映画は問いかける

しかし、私がこの映画で一番心動かされたのは、盲目のユィシアンではなくて、ダンサーを目指す少女の言葉である。
彼女、シァオジエは「踊りたい!」と思いながら、母親の反対や恋人へのコンプレックスなどから踊ることを止めていた。でも、ユィシアンに「ダンスってどんなもの?」と聞かれて、「踊ってると我を忘れて夢中になって楽しくてウキウキして……踊ってる時だけが私は生きてるんだって実感できるのよ」と答える。
これを聞いて「さて、私は、私はどうだろう? 私にとって生きてるんだ!って実感できることって?」と私は自分に問いかけずにはいられなかった。

文章を書くこと? 学生に教えること? 写真を撮ってる時? さて…その答えを私は映画を観ながら自分の胸の中で探しつづけた。

この映画は、「あなたは? あなたにとって夢中になれることはなに?」と問いかけ、観客は、ハタ、と今の自分を振り返る。人生で何度も自分を振り返ることは大切で、それをさせてくれる映画は優れた映画である。
少女がユィシアンの言葉にあと押しされ、再び踊りだすシーンに胸が騒いだ。

 

素顔のホアン・ユィシアンは
純朴でシャイな少年

阪神大震災から19年目の1月17日の夜、ホアン・ユィシアンの演奏を大阪で聴くことができた。
映画で観るより小柄で痩せている。首筋など少年のようで、26歳には見えない。挨拶の時のはにかんだ笑顔は映画そのままでぎこちないが、一旦ピアノを弾き始めると別人のように笑顔が弾け体がスイングする。

楽しそうだ。ジャズアレンジの自作曲と「上を向いて歩こう」のアレンジ版の二曲を披露してくれた。もっと聴きたいと思わせられた演奏だった。手を振りながら会場を去っていく彼を見ていると、障害を持った人は愛されるルックスを必ず持っているのかも、とふと思った。
そういえば、本作は彼の人柄が滲み出たような、優しい映画であった。

 

『光にふれる』
http://hikari-fureru.jp/

2014年2月8日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほか全国ロードショー
(C) 2012 Block 2 Pictures Inc. All rights reserved. 

キャスト:
ユィシアン:ホアン・ユィシアン
シャオジエ:サンドリーナ・ピンナ
ユィシアンの母:リー・リエ
ダンス講師:ファンイー・シュウ

 

監督:チャン・ロンジー