たとえ若くても、がんの発症が発覚する人もいます。日々、診察にあたる人間ドックのドクターは、臨床検査や健診において、その場面に立ち合うわけですが、定期的に受診者の数値を見ていくなかで、病になりやすい生活を送る人に警笛を鳴らすという重要な役割もあります。
牧田総合病院 人間ドック健診センター院長の笹森斉先生に、女性が受けるべき検査や、生活習慣において気をつけることを伺いました。
数値のアップダウンを
診ていくことが大事
編集部(以下編):若い方は、健診として人間ドックを受けにいらっしゃるそうですね。
笹森先生(以下笹):20代で受けられる方は、健康に対してとても気にされる方が多いですね。自分に病気がないか調べたいということだと思います。老化現象による病は、加齢と共に進んできますので、極端に若い人に起こるのは異常といえるでしょう。
編:健康的な生活をしているのに、病気になる人もいますか。
笹:大変特殊なケースだと思いますがいらっしゃいます。たとえばお酒を飲まないのに、肝機能の状態を示す「γ(ガンマ)-GTP」の数値が高いという方などですね。個人的な体質もありますので、数値は経過を診ていく必要があります。
数値には、正常な範囲を示す基準値がありますが、それにも幅があります。数回の検査を通して、その数値の変化に注目していくことは凄く大事ですね。
たとえば白血球の数でいいますと基準値は4000~10000ですが、もともと4000くらいしかない方が、検査結果で3800だとしたら、これは誤差の範囲と言えるでしょう。けれども、通常1万くらいあった方が突然3800だとしたらおかしいでしょう。逆に通常4000だった人が1万になるのもおかしい。かといって、真ん中の数値がちょうど良いというのも違うんですね。あくまでも基準値は、その範囲に入っていれば大きな問題はないでしょうという目安です。基準値から外れたら即病気というわけではありません。
女性が受けると良い検査は
特に「血液と骨」
編:自分は健康だと思っていても、どのような生活習慣がある人ですと、検診を受けたほうが良いでしょうか。
笹:肺がんに関しては、喫煙歴のある人はリスクが高いですね。たとえ禁煙したといっても、昔吸っていたのでしたら、肺がキレイになるわけではありません。もちろん非喫煙者の方でも、家庭や職場などで周りに喫煙する人がいて、その煙を吸ってしまう「受動喫煙」も注意が必要です。受動喫煙の有無で、肺がんの発生率に2倍程度の差があるといわれています。
加齢による、「運動器症候群」も注意が必要ですね。骨や筋肉などの運動機能が衰えることで、日常生活に支障をきたしてしまうことです。筋肉量が減ると新陳代謝が低下し、メタボになって、ますます動きたくなくなり、さらに太ってしまい、筋肉も衰えるという負のスパイラルが発生してしまいます。
編:40代以降の女性が特に受けると良い検査は何でしょうか。
笹:生活習慣に関わるものでしょうね。たとえば血液検査。脂質や血糖値の改善は、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞など血管性の病気の予防策になります。血液の問題ですと、女性の場合は生理で貧血を起こす方もいますが、実際に貧血が酷ければ、鉄分を摂取したり、注射したりといった治療が必要になるでしょう。女性に多い冷え症も、末梢の血液循環があまり良くない状況なのだと思います。体質もあるかもしれませんが、身体を動かすことによって血液循環を良くすることが、冷えの発症予防になるのではないかと思います。
また、骨粗しょう症を調べる骨密度検査も受けると良いですね。女性の骨密度は若い時がピークなので、十分な蓄えがないとあとは減る一方です。骨の健康は、カルシウム、日光浴、運動の相乗効果で保つことができるでしょう。日本食はもともとカルシウムの含有が少ないので、サプリメントで補うのも良いですね。
写真:女性専用の検査を行う「レディースコーナー」の待合室。
笹:若い時は、無茶な生活習慣が数値に表れなくても、その積み重ねが表れるのは40代以降です。ぜひ、自分が健康だと思う状態の時に一回検査をしてみましょう。それが自分の基準になりますから、検査を通して、3カ月ごと、1年ごとの変化を見ていくと良いでしょう。
~了~
<プロフィール>
笹森斉先生
牧田総合病院 人間ドック健診センター院長。日本人間ドック学会理事、日本総合健診医学会審議員。牧田総合病院 人間ドック健診センターは、人間ドック健診施設機能評価認定施設である。
写真提供・取材協力:牧田総合病院 人間ドック健診センター http://www.makita-hosp.or.jp/dock/
◆人間ドック本誌特集が掲載されているTRINITY vol.49はコチラ