一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.24 『キャプテン・フィリップス』

ソマリア人海賊に襲われたコンテナ船
実話をスリリングにリアルに再現!

トム・ハンクスが久々に正統派でリアルな船長という役どころを演じるのだ、しかも実話である。面白くないわけがない! と思っていたら、想像以上の手に汗握る歯がゆいほどの面白さだった。噛み応えのある色んな物が入った煎餅のような映画というか。
しかし、同時にアメリカの特殊精鋭部隊の非情さ、プロフェッショナルぶりにゾッとさせられたのも本音だ。

2009年の4月。マースク・アラバマ号の船長リッチ・フィリップスは妻と他愛ない話をしながらその日も長い航海の仕事に出かけた。
出航して間もないアデン湾で小型ボートに乗った4人組の海賊に襲われる。なんとか振り切ったものの、翌日再度襲われ乗船される。非武装の大型タンカー船は武装した、たった4人のソマリア人に占拠されてしまうのだ。
ここで驚いたのが、船長以下、誰も銃の一丁も持ってなくて非武装だということ。これじゃやられ放題だよ。で、結局船員が機転を利かせて反撃したものの、船長を人質にとられて海賊たちは救命艇で逃走。身代金を要求する海賊とアメリカ海軍との息詰まる交渉が始まるのだが……。

本物みたいな海賊たちにイライラ
しゃべりまくる船長にもイライラ~っ

終始ハラハラしっぱなし。
2006年の「ユナイテッド93」で見せたドキュメンタリータッチの超リアル映像と演出は、ポール・グリーングラス監督の真骨頂。今作も遺憾なく得意技を発揮して、もう落ち着いて観てられない緊張と臨場感。その現場で一部始終を体験させられているようだった。
海賊役には演技未経験のアメリカに住むソマリア人の若者がオーディションで選ばれたそうだが、これがほっんと憎々しくて狡猾でリアルでイライラさせられた。船長がやたら海賊たちに余計なことをしゃべりまくるのにもイライラ~!「もう黙っとけ!」って海賊たちじゃないけど、言いそうになったほど(笑)。
しかし、その後も船長は隙を見てはアクションを起こすので気が気じゃなかったよ~。

 

アメリカって国の怖さ
エンターテインメントの裏でふと考えること

そして、私が怖いと思ったのが、司令を出す指揮官の様子だ。冷静沈着。さて、どう作戦を実行し、成功裏に人質を助け出すか……じっと顔に手をあて普段通りに考え命令を出す。なんか、男の世界である。
軍人て、こういうふうに戦争でも冷静に爆弾を落としていってるんだろうな、と
想像させられて空恐ろしくなった。
海賊たちの末路も仕方ないのだけど、考えさせられるものがあった。

観ている間は緊張させられっぱなしだし、エンターテインメント作として文句なく面白いのだが、観終わってじんわり、アメリカという国の怖さが浮かび上がってくる一作である。
キャプテン・フィリップスはなんと、翌2010年には再び航路に戻ったそうで、彼の強靭な精神には感服させられた。

『キャプテン・フィリップス』
2013年11月29日(金)新宿ピカデリー他全国公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

監督/ポール・グリーングラス
脚本/ビリー・レイ
出演/トム・ハンクス、キャサリン・キーナー、クリス・マルキー

 
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