一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.23 『かぐや姫の物語』

高畑勲監督、14年ぶりの最新作

これは……フランス映画なんですね。
ひと昔前のアニメのような(実はものすごい技術や才能を結集しているのだが)淡い絵柄に戸惑いつつ、また、話も日本最古の作り物語という昔話で、始まりこそちっちゃな姫の可愛さに胸躍ったが、すぐに頭の中が?でいっぱいになった。
いったいこれは何を描こうとしてるんだろう?
姫は何をしたいんだろう?
野山を駆け回ってイキイキしていた姫は、都に出て行ってからまるで生気を失い、ほとんど躁鬱状態。なんだか、全然共感できない女の子になってしまう。

そして、「かぐや姫」と名前が決まったお披露目の席で、突如客の言葉に激しく反応し、怒りに任せて戸を蹴破って屋敷を出奔する前半のクライマックス。身も世もない風情で全速で走り、雪の中で倒れる。
その異様に激烈すぎる、しかし、芸術の粋を極めたようなシーンに、私は「これはフランス映画なんだな」と突如思い当たったのである。

高畑監督がアニメーション作家を目指すきっかけになった作品、「王と鳥」(ポール・グリモー監督)というフランスのアニメーション。この映画も泣けるほど美しいシーンと?のシーンで構成されていて、本作と底辺に流れるものが良く似ているように思う。また、高畑監督が監修、字幕翻訳・演出を手掛けたこれもフランスのアニメーション「キリクと魔女」(ミッシェル・オスロ監督)も通じるものがあるように思う。

フランス映画だと分かると、なんだか観やすくなった。
しかし、この芸術性の高さは広く受け入れられるのか? は疑問ではある。

私たちは皆、かぐや姫と同じ
前世の記憶を忘れさせられた

そして、圧巻なのはラストの月の迎えのシーンだ。
かぐや姫は宇宙人だったというのは有名な話だが、彼女が地球での全てのことを忘れるという羽衣をかけられそうになるシーンで、涙が溢れてしまった。それは、きっと、私もこの世に生まれる時に前世の記憶を忘れさせられたからだと思う。それを思い出して彼女に共鳴したのだろう。姫は羽衣をかけられ、無表情になって月に帰っていく。しかし、名残り惜しそうな、悲しそうな顔で振り返るのだ。

「しっかり生きなさいよ」
高畑監督のメッセージにハッとさせられる

私は腑に落ちた。
高畑監督は私たちに「しっかり生きなさい」と言っているのである。
なにもしなかった、生きることをしなかったかぐや姫。彼女はいっぱい後悔しながら月へ帰って行った。そうなってはいけないよ。ちゃんと生きなさいよ。ジブリ作品のメッセージはいつも同じだ。
「しっかり生き切れ!」
何筋もの涙が頬をつたった。

 

『かぐや姫の物語』
2013年11月23日(祝) 全国ロードショ―

©2013 2013 2013 2013 2013 畑事務所・ GNDHDDTK

■スタッフ
製作: 氏家 齊一郎
原案・脚本監督: 高畑 勲
脚本: 坂口 理子
音楽: 久石 譲
(サントラ/徳間ジャパコミュニケーショズ)
主題歌 二階堂和美「いのち記憶」
(ヤマハミュージックコニケションズ)
声の出演 : 朝倉あき 高良健吾 地井武男 宮本信子

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