自信が無いのは、あなたが優しいから

自信がなくてもいい

「私には、自信が無いの」
夕暮れの公園、ブランコに揺られ、ある女の子が、肩を落とした。
ついさっきまで、この公園の砂場では、数名の女の子がおままごとをしていた。
みんな自分の意見をはっきり言う、自信に満ちた女の子ばかりだった。

少女A
「ダイエットはやっぱり、バナナよりアップルよね」
少女B
「プロ野球選手はやっぱりダメね。ダルビッシュの離婚でわかったわ」
最近の幼稚園生は、慰謝料の分配額にさえ、自分の意見を持っている。
そんな、自信満々の女の子たちのグループで、
その少女は、自分に自信が持てず、みんなが帰った公園で、つぶやいたのだった。
女の子
「わたしには、自信が無いの」
(それを見ていたサラリーマンが、女の子に話しかけた)
サラリーマン
「おじょうちゃんは、とっても優しいんだね」
女の子
「どうして?わたしは、自信が無い、って言っただけよ?」
サラリーマン
「自信が無いというのは、優しいという事なんだよ」
女の子
「え? どうして?」
サラリーマン
「自信が無いということは、『私の意見は間違っているんじゃないかしら』って事だ。
それは、どういうことだとおもう?
『私の意見』より『あなたの意見』の方が、正しいのじゃないかしら、って事だ。
あなたの言ってることの方が、正しいのじゃないかしら。
「わたし」なんかより、「あなた」の方が正しいのかもしれない。
「わたし」の気持ちより「あなた」の気持ちを大切にしたい。
「わたし」より、「あなた」を大切にしたい。 だから、自信が無い。
おじょうちゃんには、自信が無いんだろ? それは、おじょうちゃんが、優しいからだ」
女の子は、なんだか嬉しくなってきた。
自信が無い自分が、むしろ誇らしく思えて来た。
それは、その少女が、「自信が無いわたし」に、初めて自信が持てた瞬間だった。
「自信が無いままでも良いんだ」と、自信が持てたのだ。
少女は、並んでブランコをこぐ、自分に自信を与えてくれたサラリーマンより、 大きく、大きくブランコを揺らし、加速をつけて、遠くに飛び降りた。
女の子
「ありがとう、おじちゃん。人生でこんなに力が溢れて来たのは、初めて。
おじちゃんは、まるで、魔法使いね。 そっか、わたし、優しかったんだ♪
ありがとう、またね!」
夕陽は、家路につく少女の影を、いつもよりも長く、地面に落した。

少女を見送ったサラリーマンは、
「よっしゃ!俺も、やるぞ!」とつぶやいた。
実はこのサラリーマン、今日会社で大きなミスをして、 自信を無くして、トボトボ公園にやって来たのだった。
ふと見ると、自分の娘と同じくらいの女の子が、肩を落としていた。
サラリーマンは、自分自身に言い聞かせるように、少女を諭したのだった。
「自信が無い少女に、自信を与える事が出来たんだ、 まるで俺は、ヒーローのようじゃないか!きっと、今なら、出来る!」
『自信を与えられたこと』に自信をつけたサラリーマンは、 丸の内のビル群のどこかに、消えて行った。

明日に自信が無いのなら、どうぞ、それを誇ってください。
自信が無いのは、あなたが優しいから。
自信が無い分、他信があるでしょう。
「わたし」を信じられない分、「だれか」を信じてあげているのでしょう。
唯一の正解なんて無いこの世で、「わたし」だけの主張が正しいわけがありません。