息子を失った元京劇スターと3人の若者がつむぐ物語 PART.1 『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』

失望の母親の前に現れた3人の若者たち

『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』は、老境に入った元京劇スター、チャン・ユエチンが一人息子を亡くした絶望的な日常のなか偶然同居することになった若者とのふれあいと、四川大地震で崩壊した神秘的な観音山での修復作業を通じて心癒され安寧の境地に入る物語を縦軸に描いている。

一方、ユエチンと同居する、現代中国の急激な経済成長の只中にいる3人の若者の風俗、粗暴な中に潜む優しさを横軸に活写。この縦軸と横軸が、清水が岩に染み透るように自然に解け合う様子が描かれ、感動を呼ぶ。第23回東京国際映画祭最優秀芸術貢献賞、最優秀女優賞(ファン・ビンビン)受賞。

2009年、中国の古都四川省成都市。引退した京劇女優チャン・ユエチン(シルヴィア・チャン)は、前年5月12日に起きた大地震の日に一人息子を亡くし、劇団内でもかつての弟子から冷たくあしらわれていた。ユエチンは孤独だった。

そんなユエチンが自宅に「貸し間あり」の札を出すと、ナンフォン(ファン・ビンビン)、ディン・ボー(チェン・ボーリン)、太っちょ(フェイ・ロン)という3人の若者が共同で入居してきた。中国の経済成長の波は山奥の古都にも押し寄せてきて、彼らは歌手や法律すれすれの仕事をしながら逞しく生きているように見えた。しかし、3人それぞれが父親との確執を抱えたナイーブな若者たちであった。世代の違うユエチンと3人はことごとく違う生活に反発もあったが、若者たちのたわいもないいたずらや、ふと見せる優しさに、ユエチンの心にも彼らへの小さな愛情が芽生えた。ユエチンと3人はようやく理解し合えたかに見えた。

そんなある日、ユエチンが手首を切り自殺を企てたのを発見した3人は、ユエチンの絶望の深さを知る。彼らは以前、貨物列車に忍び込んでたどり着いた観音山にある寺に、ユエチンを連れて行った。そこには地震で崩れた寺と仏像があった。4人は、ユエチンの息子が運転していた自動車を修理し、それに乗って観音山の寺と仏像の修復を手伝いに通い始めた。仏像の修復を手伝うユエチンは心癒され、ようやく安寧の地を見つけたのだった……。

心を癒し、学びを与える山「観音山」

四川省成都市には「観音山」という場所が実在し、そこで2008年四川の汶(ウェン)川(チュアン)地震の被害に遭い壊れかけていた寺が修復された、というのは実際にあった話である。

中国にはまた、重慶にも有名な「観音山」があり、台湾の台北にも同じ名称の「観音山」がある。
原題の『観音山』は、実在の場所であるとともに”心の安らぎ”の場所であり、哲学的かつ象徴的な意味を表している。自然の災害に対する人間の無力、そこで向き合って寺の修復を手がけるという行為は、人間の心にある傷を、宗教(信念)を通じて悟ることによって釈然する、という意味を暗示している。そういったことから原題の『観音山』を、広く「仏教」の意味を示す英題として“Buddha Mountain”を使っている。

 

『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』
9月28日(土)よりユーロスペース、K’s cinemaほか全国順次ロードショー
(C) LAUREL FILMS

シルヴィア・チャン(張艾嘉/Sylvia Chang):チャン・ユエチン/常越琴
ファン・ビンビン(范冰冰/Fan Bingbing):ナンフォン/南 風
チェン・ボーリン(陳柏霖/Chen Bo Lin):ディン・ボー/丁 波
フェイ・ロン(肥 龍/Fei Long):太っちょ/肥 皂
チン・ジン(金 晶/Jin Jing):リン・ユエ/林 月
ファン・リー(方 励/Fang Li):ディン・ボーの父/丁波父親

監督・脚本:リー・ユー(李玉/Li Yu)
プロデューサー・共同脚本:ファン・リー(方 励/Fang Li)
撮影:ツォン・ジエン(曾 剣/Zeng Jian)
美術:リウ・ウェイシン(劉維新/Liu Weixin)
音声:トゥ・ドゥチ(杜篤之/Tu Duu Chih)
録音:トゥ・ツーカン(杜則剛/Tu Tse Kang)
編集:ツォン・ジエン(曾 剣/Zeng Jian)
カール・リエドル(卡尔•瑞德/Karl Riedl)
音楽:ペイマン・ヤスダニアン(佩曼•雅斯達尼亞/Peyman Yazdanian)

2010年/中国/カラー/1:1.85/ドルビーSR/109分
配給:オリオフィルムズ/キノ・キネマ
提供:オリオフィルムズ/キノ・キネマ/マクザム
協力:LAUREL FILMS INTERNATIONAL

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