ライフスタイルデザイナー高橋克彰の“ウェルネスのセンスを磨く” PART.4~アメリカの経済格差と健康格差~

前回、日本における経済格差と健康格差についてお伝えしました。
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今回は、この経済格差と健康格差の生みの親とも言えるアメリカの事情についてお伝えします。
生みの親と言いましたが、戦後から現在にいたるまでの世界経済の体制を主導しつくり上げてきたのはまぎれもなくアメリカです。
なんと言っても世界の基軸通貨は米ドルですから。
「今のアメリカが、数年後の日本」であるとも僕は考えています。

さて、アメリカ人の健康については、みなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?
口にほおばることのできない大きさのビッグマックにフライドポテト、バケツサイズのアイスクリーム、そして男性の靴サイズもあるビフテキ、などと言ったところでしょうか。
これらは事実、今も昔も存在しています。
一方で、今のアメリカはウェルネス分野においては世界のどの国よりも進んでいて、
栄養学については日本の10年も先を行っていると言われています。

なぜこうも極端な不健康と健康がアメリカには存在するのでしょうか?

戦後、食糧供給に関するテクノロジーが飛躍的に向上し、20世紀後半からアメリカでは外食産業が急成長、同時に加工食品やファーストフードが大量生産されるようになりました。
時期を同じくして、1960年代後半のアメリカは生活習慣病、特に心疾患やガン患者を大量に生み出し、アメリカの医療費を凄まじく圧迫していました。
時のニクソン大統領はその状況に危機を感じ、ガン死亡率半減を目指して主に治療技術などの医療分野に巨額の予算を投入。
その額はアポロ計画並みの予算と言われます。当時のアポロ計画の予算を今の日本円の価値になおすと、約14兆円。今の日本の防衛予算が4兆6000億円ですから、日本の3年分の防衛予算がガン治療に使われたわけです。すごい額ですね……。

しかしいざ蓋を開けてみると効果はほとんど上がっておらず、むしろガン患者が年々増えていくというありさま……。

その後、何年もの研究と議論を重ね、
1977年、アメリカ上院議員のマクガバン氏が報告した「マクガバン・レポート」は有名で、アメリカ人の心臓病やガンなどの病気の原因の多くが、野菜や果物が少なく、砂糖や肉や動物性脂肪たっぷりの食事に起因していること。
そして、増大する医療費によって国が破産してしまうことを警告。

「こんだけ治療にお金かけたのに意味ないじゃん!もう病気にならないようにするしかない!」

ということで、これ以降「治療」から「予防」へ、つまり「ウェルネス」を重視した政策へ転換していきました。
ある意味では、「病気になった人はもう自分の責任だからね〜。」ということになったわけです。

アメリカはそもそも日本のような国民皆保険の国ではありません(公的医療保険がない)。
病院に行けば100%自己負担です。

風邪で受診したら2万円(薬代は別)。
救急車を呼んだら5万円
虫歯一本抜くのに7万円
盲腸の手術で200万円(入院たった1日で)。

ガンや心疾患、糖尿病など、長期医療が必要な病気になってしまったら、果たしていくらのお金が飛ぶのでしょう。数百万円から数千万円はくだらない。
実際、アメリカで急病になり、集中治療室に数週間お世話になったら、後日送られてきた請求額が1千万円だった、という方の話を聞いたことがあります。不幸なことに保険にも入っていなかったので、その方はなんとかカンパを募って支払いを無事に済ませたそうですが、これがもし我が身と考えただけでも恐ろしい……。

今アメリカで自己破産をする人のうち、約半数は医療費が原因です。

ここで気付いた方も多いと思いますが、アメリカでは病気にかかることは破産への道を歩むことになります。家族のうち、誰か1人でも重い病気にかかれば、それは家族全員を経済的に苦しい立場にしかねない。
健康は家計にモロに直結しているのです。

それじゃあ、民間の保険会社の医療保険に加入すればいいわけですが、その保険料はなんと平均で月約5万円。このため、アメリカの所得の低い層では民間保険に加入できない人たちがたくさんいます。険に加入できないということは、なおさら病気になることができない。でも病気にならないようにウェルネスを実践しているかというと、それもまたできない。できないというより、そもそもウェルネスに関する教育を受けていないため、正しい知識を持っていない。ウェルネスに対して無知で、所得の低い地域には生鮮食品を扱うスーパーが無くなり、安いジャンクフードや缶詰食品ばかりを扱う店ばかりとなり、その地域では肥満などの栄養問題が増える「フードデザート(食の砂漠)」が拡大しています。

一方、所得の高い層が集まる都市に行けば、健康食の代表である日本食レストランや、オーガニックの野菜や果物をふんだんに使ったローフードレストラン、スポーツジムやヨガスタジオ、オシャレなデイスパなどがあふれています。
ここで暮らす人たちは高い健康保険に加入しつつ、ますます健康と美容に磨きをかけていきます。

ニューヨーク州、カリフォルニア州は全米でも平均所得の高い州ですが、ここではウェルネスへの関心が高い人が多く、肥満率が低い。逆に、ミシシッピ州、テネシー州、ウェストバージニア州などは所得が低い州で、肥満率が高い。アメリカではこの所得格差と健康格差の状況が数年前から見られていましたが、今、日本でも全く同じ状況になりつつあります。

アメリカは世界でもトップレベルのウェルネス先進国でありながら、その実態は「所得格差=健康格差」のもっとも大きい国でもあるのです。

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