生霊さえ愛おしむ 岩井志麻子というオンナ

生霊さえも愛という力で凌駕する岩井志麻子

「あのオンナってどの女?」 そう突っ込みを入れたくなるのが岩井志麻子さんの新刊、「あの女(オンナ)」。表紙には占い師が使いそうな水晶。こんな水晶、持ってる持ってる、という人も多いのでは? いや、それはTrinity編集部内だけ?
実は、あのオンナは実在の人物だそうだ。特定されないようにすべて脚色されてはいるが。岩井志麻子さん本人?とも思える女芸人に取り入ってマネージャーになった、あの女。女芸人を自分一人のものにしようと夫との離婚作戦を画策する。あろうことか、「4人の占い師が“女芸人さんの夫には、『殺された女』が斜め上から肩車のように乗って、しがみつくように抱きついている”と言います」などしゃーしゃーとでっち上げ、女芸人の夫を母殺しの鬼畜へと仕立ててゆく……。一時は夫にかすかな疑惑を持ち始めた女芸人。しかし、女芸人の疑惑を払ってくれたのも霊能系の話に詳しくそちら方面の能力もあるのでは、といわれる著名人。そして、岩井志麻子さんが第一話の最後につぶやく言葉は「死んだ人より、生きた人が恐ろしい」。
「昨日の夢と今日の夢」に始まり、全8話がすべてあの女の話。そのなかには、あの女のことをネタにしまくった岩井志麻子さんの自宅マンション集合ポストに、う○こ付きの破られた週刊誌のあの女の記事ページが入れられたという実害から、ポルターガイスト現象のような奇怪な出来事。ドッペルゲンガーのように、いるはずのない場所や時間で出現するあの女の恐怖が、これでもか!とつづられる。あの女は、言動は虚飾に満ちているが、霊能力だけは本物なのか?
そして、幼少時から怖い話は大好きだけれど、自分には無縁だった岩井志麻子さんの周りに霊能者といわれる人が増えたり、どうしても霊的現象だと解釈せざるをえない出来事が度重なる。
1冊の単行本になるほどの、あの女。岩井志麻子さんは、読者があの女を求めるからとしつつも「書く理由は至って簡潔。私が『あの女』を大好き、それがやはり一番ではなかろうか」と語る。すべては好きか、興味がないに分けられるという岩井志麻子さんは、好きの反対は無関心とマザー・テレサの言葉を引用。
「私の中で、愛は恐怖にきわめて近いところにもある。愛する人は怖い人。恐れるものは愛しいもの」
生霊さえも愛という力で凌駕する岩井志麻子というオンナ。文中でも霊さえ退ける霊的なことに無神経な人として自身を紹介しているが、実は霊現象を深刻にさせない秘訣は大いなる愛にあるのかと、遅ればせながら感じた次第だ。

『あの女』
岩井 志麻子 著
550円(税込)
2012年4月6日 発行

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