幸福の国のブータン便り・第八稿「く」~「グロスナショナルハピネス~GNH」編

ブータンには、GNPやGNIといった、世界中で使用される豊かさの基準とは異なる独自の基準があります。
GNH~グロスナショナルハピネス、この基準が謳われてから、鎖国していた閉鎖的な小国ブータンが世界的に名の知れた国になったのはいうまでもありません。

GNH~国民総幸福量は、「ひとりひとりの国民がどれだけ幸せを感じているか」ということで国の「豊かさ」を測ります。
さてこのGNH、この言葉自体はよく語られることですが、さてそれがどうやってはかられているんだろう? こんなことはあまり話題になっていません。
私は滞在中にブータンで学者の方にお会いし(またこの方がブータン人らしくって気さく!ブータン人は超気さく国民です!)、長時間、議論にふけったことがありました。

私は貧困地域に滞在していたことから、このGNHが97%(2007年)という結果に疑問を感じていて、それがどういう調査方法で行われているかについて、とても興味がありました。
手にしたのはものすごいアンケートの冊子。そう、およそ800にも及ぶ質問事項が書かれている冊子、これを数1000人の人に配布し、それをまとめGNHを出すということでした。

アンケートはいまも手元にありますが、例えば、あなたが小学生なら、「学校の設備についての質問」項目には、「教室の設備は十分ですか?」、「お手洗いの設備は?」といったことを問われ、それが5段階の満足~不満足に答えられるしくみなっています。

これがとっても詳細で、アンケートに答えるだけで、数日はゆうにかかります。

学者の方との議論の中で、「これでは識字率の低い地域のいわゆる貧困地区の人たちへはアンケートの回答が得られないし、比較的若い人たちは識字率も高いけれど、それはあくまでも教育を受けられる人のレベル。このことにはものすごく問題がある。GNHって実際はどうなんだろうかと思う。幸福ですかといっても、足るを知るという仏教の観念のもとでは、今を幸福だといわざるを得ない」などと延々と話をしたことがあります。ブータン人にもそのことに疑問を抱いている人もいます。

そういった矛盾が、幸せの国ブータンにも多く存在します。
この10年で経済発展の波がブータンにも押し寄せ、車の数も、首都の人口も数倍になりました。今首都はマンションの建設ラッシュとまで言われています。多くの田舎の学生が卒業後、職もなく、けれど首都に出たいとやってきて、徘徊しているのも現実です。

けれどやはり自然環境に対する取り組みなどを見ていると、ブータンっていいな、これもGNHがあるおかげだな~と思うことがあります。
GNHはブータン人の信条である仏教と非常にマッチしており、自然崇拝が自然と自然環境を守るGNHの理念につながっていったりします。

「ブータンは次の10年がどうGNHが活かされていくかの勝負」と聞いたけれど、何事も基盤が大切。そしてそれを動かしていくものの心が大切。
GNHは文言にもなっているし、法律をもその理念から生み出せるし、ある意味人々の信条に即した自主規制でもあります。
言葉が独り歩きするのではなく、それを生み出し、使う人間の心、行動が問題。

この、幸福量で国民の幸せを測るという政策は近年、フランスや日本でも議論され始めました。
GNH、ブータンでも人の心が試されている、そんな気がしてなりません。

ブータンに限らず、人の世は常に誤った方向に行く可能性を大きく帯びたものであること、それを肝に銘じ、そのことに気付いたのなら、舵を正しい方向に切るということも、人間に与えられた使命で、叡智であると私は思っています。
そんな意味で大自然の現存するブータンでは、いまGNHによりその国の移り変わりを天や大自然がそっと見ているような気がします。とても静かに、厳かに。
10年後のブータンも、10年後の日本も、幸せに包まれたものでありますように。

★バックナンバーはこちら