大峯千日回峰行満行者・柳澤眞悟師 「行じて見えた、現代を生きる智恵」PART.1

Trinity42号にご登場いただいた柳澤眞悟師は、吉野・金峯山寺の歴史のなかで、大峯千日回峰行を戦後初めて満行された大阿闍梨様です。本誌ではご紹介しきれなかったインタビューをお届けします。
※大峯千日回峰行とは…奈良県・吉野山の金峯山寺蔵王堂から大峯山上ヶ岳(標高1719メートル)にある山上蔵王堂までの山道を、往復48キロ、山上蔵王堂の戸開期間中143日の間、1日も休まず歩き続け、8年かけて満行する行のこと。

― なぜ、千日回峰行を行じようと思われたのでしょうか。

柳澤師:「昭和50年に、最初に百日回峰行を行いました。目的は精神的に強くなるとか、悟りが開きたいということだったのですが、精神的には変化がなかった。虚しい気持ちですよね。やり遂げたという実感がなかった。『このままでは篤信がいかない、お寺を出て元の生活に戻ることもできないし、もう進むしかない』と、私の師匠である五條順教金峯山寺前管領にお話し、千日回峰行のお許しをいただきました。山上ヶ岳の戸開期間中143日間、山を歩き続けると身体の生理機能というか循環機能が違ってくるんですよね。循環が100%活性化する。細胞が活性化するのかどうか分りませんけれど、非常に爽やかになる。身体が清浄になるのです」

― 毎日山を普通に歩いていたら、神経が繊細になるのでしょうか。

柳澤師:「私の場合は、ほとんど外に神経を向けません。雨が降って、風が吹いて、それらは自分を襲ってきますから、恐怖心とか冷たいというのはありましたが、『花が咲いた』とか考える余裕はなかったんですよ、私の場合はね。歩くのに精一杯、自分との戦いで、穏やかなもんじゃなかったんですよ。千日間そうでしたね。戦いですわ。余裕がないんですよ。やっぱり余裕が出てきたのは最近ですね」

― 肉体と精神を酷使して行をおやりになったのは、解せないものがあったことを追求したいという思いでいらっしゃったのでしょうか。

柳澤:「最終的には苦しみからの解放でしょうね。悪い言葉でいうと現実の逃避のように見えますが、良く言えば身体を鍛えて精神も鍛えることになりますけどね」

― 8年の行を満行された後のお気持ちはどうでしたか。

柳澤:「やり終えた時もね、『ああ終わったかな』くらいかな。涙は出ましたけれど、そんなに深くはないし、達成したという意識もないですね。でも、まだ苦しみから逃れられないというのはありましたね。そのことを師匠に話すと、『修行というのは井戸に雪を埋めるようなもの』と言っていました。井戸に雪を埋めると、みんな溶けて消えてしまいますよね。それと同じだから何も求めてはいかんと。修業にはゴールがありませんよね」

PART.2へ続く

■プロフィール
柳澤眞悟(やなぎさわしんご)
昭和23年長野県茅野市にて生まれる。25歳で吉野山金峯山寺に入寺。35歳で「大峯千日回峰行」を戦後初めて満行。大峯千日回峰とは、奈良県・吉野山の金峯山寺蔵王堂から大峯山上ヶ岳(標高1719メートル)にある山上蔵王堂までの山道を、往復48キロ、山上蔵王堂の戸開期間中143日を1日も休まず歩き続け、8年かけて満行する行のこと。昭和59年には、断食・断水・不眠・不臥を9日間続ける「堂入」(四無の行ともいわれる)を満行。平成元年、笙の窟百日籠山行を満行。その後、寺内において2度の百日籠山行を満行。平成22年に権大僧正。現在は金峯山寺副住職、金峯山修験本宗「成就院」住職を務める。

■information
世界遺産 金峯山寺 国宝仁王門 大修理勧進
秘仏本尊特別ご開帳
蔵王堂ご本尊、日本最大の秘仏金剛蔵王大権現3体(重要文化財)を拝観できます。
2012年3月31日(土)~6月7日(木)まで
http://www.kinpusen.or.jp/event/2012-gokaityou.pdf

金峯山寺 http://www.kinpusen.or.jp/