息子を失った元京劇スターと3人の若者がつむぐ物語 PART.2 『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』

『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』は、老境に入った元京劇スター、チャン・ユエチンが一人息子を亡くした絶望的な日常のなか偶然同居することになった若者とのふれあいと、四川大地震で崩壊した神秘的な観音山での修復作業を通じて心癒され安寧の境地に入る物語を縦軸に描いている。
一方、ユエチンと同居する、現代中国の急激な経済成長の只中にいる3人の若者の風俗、粗暴な中に潜む優しさを横軸に活写。この縦軸と横軸が、清水が岩に染み透るように自然に解け合う様子が描かれ、感動を呼ぶ。第23回東京国際映画祭最優秀芸術貢献賞、最優秀女優賞(ファン・ビンビン)受賞。

震災の地を舞台にした人々の再生ストーリー

リー・ユー監督インタビュー
Q:『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』はどのようなストーリーですか?この映画で表現したかったことは何ですか?また、映画のタイトルの由来は何でしょう?

A:簡潔に言えば、若者の夢と人生の生きる目的についての物語です。3人の独立しようとする男女、絶望に打ちひしがれた女性、彼らは皆何かしら家庭の悩みを抱えており、その悩みから抜け出そうと出口を探しています。彼らは「生きる喜び」というものは本当にあるのかを自問し、その喜びに出合える方法を探しているのです。映画を観て頂くと、4人は多かれ少なかれ共通の悩みを抱えていて、何も持っていないか、あるいはすべてを失った状態であることが分かるでしょう。しかし彼らが愛を見出した時、若者の夢は羽ばたいて人生は永遠に続くのです。「ブッダ・マウンテン(観音山)」は08年5月12日の四川大地震で倒壊した菩薩寺のある山の名前です。この映画の直接的なメッセージではないにしろ、ある意味でこの映画はブッダの教えるところの生きる目的とは何かを問いかける映画だったため、このタイトルにしました。多くの中国人が、苦しみや人生の壁にぶつかった時、仏教に心の救済や解決を見出そうとします。「ブッダ・マウンテン」は地名であると同時に人々の魂が宿る場所なのです。

Q:若い男女3人はエネルギーに満ち溢れているが満たされず、楽しく暮らしているが問題を抱えており、キレやすいが時に親切だったりする。彼らは今の中国の若者として描かれているのでしょうか?

A:夢は情熱をもたらし、自由は喜びをもたらします。中国経済は急速に成長し、物質的な豊かさこそが人々の求めるものとなり始めています。今の中国の若者は、社会や親からの「金持ちに、有名になれ」というプレッシャーを抱えています。それは小学校入学時から既に始まっています。しかし私は、若者の夢は素晴らしいもので、自由はお金に換えることはできないと思っています。大金持ちでない人も幸せな人生を暮しているのです。

Q:批評家の中にはこの映画をロックンロール混じりの詩のようだと語る人もいます。ドラマチックな出来事や緊迫感のあるシーンだけでなく、この映画は優しさにも溢れており、そして予想外の結末で幕を閉じます。このエンディングは仏教の精神からきているものと思うのですが、それについてどう思いますか?

A:ストーリーの側面からみると、この映画はロマンティックで理解しやすいものでしょう。しかし、この映画のテーマの側面からみると、エンディングは何通りもの解釈ができるように作っています。もし私に真実は何かと尋ねられても、答えられません。それがこの映画の素晴らしいところなのです。

Q:シルヴィア・チャン、ファン・ビンビン、チェン・ボーリンといったスター俳優が『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』の中で素晴らしい演技をしています。リー監督は、ファン・ビンビンとは前作『ロスト・イン・北京』で組みましたが、シルヴィア・チャンやチェン・ボーリンとの仕事は今回が初めてですね。彼らとの仕事はどうでしたか?

A:ファン・ビンビンとは『ロスト・イン・北京』以来二度目になります。この『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』の素晴らしい演技で、彼女は一躍スターダムに駆け上がりました。ファン・ビンビンとの仕事はとてもやりすいです。シルヴィア・チャンは、長年私にとって尊敬する女優でした。彼女は、自信に満ちた素晴らしい演技でいかにプロとして訓練し女優業に専念してきたかを示し、撮影メンバーの尊敬を集めていました。ボーリンは、最後に撮影に参加しました。台北から成都に到着して二日目にはもう撮影に参加していました。彼とディン・ボー(ボーリンの役名)とは家庭環境などのバックグラウンドが全く違うにもかかわらず、見事に役を演じ切りました。私は『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』でこの3人に演じてもらうことができ、幸運だと思っています。彼らが真剣に役に取り組んでくれたことに感謝しています。

≪監督・プロデューサー≫
監督:リー・ユー(李玉)
1973年山東省青島市生まれ。16歳からテレビ番組のゲスト司会者として活動し、山東師範大学(中国文学)卒業後にローカルテレビ局の司会者となった後、北京に出てドキュメンタリーのナレーターとして制作に参加。96年に「姐姐」で全中国ドキュメンタリー協会グランプリを受賞。その後、ドキュメンタリーで多くの賞を受ける。01年に発表した初の長編映画『今年夏天』は、第58回ベネチア国際映画祭エルヴィラ・ノターリ賞、第52回ベルリン国際映画祭International Forum of New Cinema部門最優秀アジア映画賞を受賞(日本では、『残夏』として02年の第11回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映。中国初のレズビアン長編映画)。05年に初めてプロデューサーのファン・リー(方励)と組んだ監督作『紅顔』が第62回ベネチア国際映画祭CICAE賞他を受賞。『ロスト・イン・北京』(07)は第57回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。本作『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』(10年)は第23回東京国際映画祭最優秀芸術貢献賞、最優秀女優賞(ファン・ビンビン)を受賞。最新作は『二次曝光』(12)。
13年3月の大阪アジアン映画祭にて《 Director in Focus リー・ユーの電影世界》として『ロスト・イン・北京』『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』、『二重露光(二次曝光)』の3作品が紹介された。ファン・ビンビン主演の3部作で、リー・ユー監督はこれまでにないファン・ビンビンの魅力を引き出した。とりわけ官能的な描写のみずみずしさ、男性女性を問わず多様なセクシュアリティを描くことに長けている作家は、これまでの中国映画界にはいなかった逸材。
『ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅』
9月28日(土)よりユーロスペース、K’s cinemaほか全国順次ロードショー
(C) LAUREL FILMS

シルヴィア・チャン(張艾嘉/Sylvia Chang):チャン・ユエチン/常越琴
ファン・ビンビン(范冰冰/Fan Bingbing):ナンフォン/南 風
チェン・ボーリン(陳柏霖/Chen Bo Lin):ディン・ボー/丁 波
フェイ・ロン(肥 龍/Fei Long):太っちょ/肥 皂
チン・ジン(金 晶/Jin Jing):リン・ユエ/林 月
ファン・リー(方 励/Fang Li):ディン・ボーの父/丁波父親

監督・脚本:リー・ユー(李玉/Li Yu)
プロデューサー・共同脚本:ファン・リー(方 励/Fang Li)
撮影:ツォン・ジエン(曾 剣/Zeng Jian)
美術:リウ・ウェイシン(劉維新/Liu Weixin)
音声:トゥ・ドゥチ(杜篤之/Tu Duu Chih)
録音:トゥ・ツーカン(杜則剛/Tu Tse Kang)
編集:ツォン・ジエン(曾 剣/Zeng Jian)
カール・リエドル(卡尔•瑞德/Karl Riedl)
音楽:ペイマン・ヤスダニアン(佩曼•雅斯達尼亞/Peyman Yazdanian)

2010年/中国/カラー/1:1.85/ドルビーSR/109分

配給:オリオフィルムズ/キノ・キネマ
提供:オリオフィルムズ/キノ・キネマ/マクザム
協力:LAUREL FILMS INTERNATIONAL

PART.1はこちら
https://www.el-aura.com/2013061106/