幸せを招く神、コロポックルのいる森と観光イベント〜彼らがいなくなった森はどうなっているのか

実際に目にした時は「え? コロポックルって本当にいるの?」とすごくびっくりしました。
コロポックル

私の住む北海道では、漫画・アニメ「ゴールデンカムイ」(野田サトル作)の影響で、アイヌ文化が注目されていますが、皆様はどのくらいアイヌ文化について知っていらっしゃるでしょうか?

今回はアイヌ民族に伝わる幸せを招く小人の神=コロポックルと出会った話や、観光イベントが自然界やカムイ(アイヌ語で神の意)達に与える影響について書かせていただきます。

 

幸福を招く神コロポックル

コロポックルは、アイヌ語で「蕗の葉の下の人」と言う意味になります。
コロ=蕗の葉
ポツ=下
クル=人、神

北海道観光地のアイヌ民族の土産物店などでは、「コロポックル」は「幸福を招く神」とされ、木彫りやイラスト等に可愛らしい姿で表現されています。

蕗の下に住む小さな背丈の神様で、体中に入れ墨をしていると伝えられています。

コロポックル

(木彫りのコロポックル像/画像提供ウィキペディア)

それはあくまで伝承ですが、民俗学の研究者によると、アイヌ民族が北海道に住む以前にいた先住民族と言う説や北千島のアイヌだという説もあります。

北海道には高さ2mを超える蕗が生えている地域もあるので、少し背の低い民族が蕗の下に実際にいたとしても不思議ではありません。

最近では「ゴールデンカムイ」の影響でアイヌ文化がほんの少し全国的に知られているようですが、北海道に生まれ育った私としては、小さなころから温泉地等でよく目にする「可愛らしい小人の人形」くらいの認識でしたので、実際に目にした時は「え? コロポックルって本当にいるの?」とすごくびっくりしました。

 

コロポックル達との出会い

彼らに出会ったのは、ある温泉観光地の外れにある森でした。
春に水芭蕉の咲く湿地帯や小川、湖、温泉がボコボコと湧き出て白煙を上げる沼等があり、自然を壊さない程度に整備された散策路もありました。

初めてその森に足を踏み入れる時、ザワザワとした寒気が背中に走るような感覚があり、戸惑いました。
それが「良くない場所に感じる嫌悪感」なのか、「人間が足を踏み入れてはいけない場所に立ち入ることへの畏怖」なのか判りませんでしたが、呼ばれているような気がして行ってみたのです。

散策路の両側は、太い幹の木が倒れ、そのまま苔むしていて、殆ど人の手が入っていない状態でした。
空気はひんやりとして密度が濃く、小鳥の無く声やパチーンと木のはぜる音等が聞こえます。

「わっ!! ふんじゃう!!」
突然目の前に現れた何かにそう感じて出しかけた足を止めた時、
「え? でも、何もいない筈……」
と、よく見ると、そこに、私の膝より小さいくらいのアイヌ民族の衣装を着た女の子がいました。

「あ~、びっくりした! 危ないから突然出てきちゃダメでしょう」と言いながらも、
(え? 私、何と話しているの?)
と、しばらくマジマジと見ていると、同じような小さな子達が沢山わーっと出てきました。

皆、好奇心で目を輝かせ私と流輝先生を見上げ、口々に話し出します。

「〇〇様(見えない世界の者が呼ぶ私の呼称)僕たちの事が見える?」
「うわ~~! △△様(流輝先生の呼称)本当におっきいね!」
「長老が言ってた通りだね!」
流輝先生によじ登ろうとする子もいます。

子ども達の向こう、湯沼の横に白い髭をたくわえた、私の膝より少し大きいくらいの老人が私達を待っています。
同じくらいの背丈の若い男女も数人いて、「登っちゃダメ! 失礼でしょ!」「ほら、お困りだから道を開けて!」と叱っています。

そこは彼らにとって大事な地であり、少し奥に隠れつつ守っているのだそうです。
それ以来、その地を訪れると彼らは現われ、いつも一緒に楽しくおしゃべりをしながら散歩していたのを、今では懐かしく思い返します。

コロポックル

(水木しげるロードのコロポックルプロンズ像/画像提供ウィキペディア)

 

観光イベントの影響

その森でプロジェクションマッピングを使った観光イベントが始まったというニュースを目にした時、あの子たちは大丈夫だろうかと心配になりました。

先日その森を訪れた時、森は一見、きれいに整備されたように見えました。
太い幹の木が何本も切られ、カモフラージュされた機械があちこちにつけられ、沢山の植物が刈り取られ、そこはもうすっかり人工的な場に変わっていました。

森の奥の小高い丘から彼らの気配を感じ、気を飛ばして話しかけてみると返事が返ってきました。
彼らはもっとずっと奥の森で暮らすことにしたそうです。
私達の気配を感じて来てくれたけれど、そこまで来るので限界なのだそうです。

彼らは「自分達をコロポックルと呼ぶアイヌもいる」と言っていましたが、コロポックルが見えない世界の精霊なのか、他の何かなのかは判りません。
ただ、彼らが大事にしていた森がその場にありながら消えてしまった事だけは判ります。

彼らがいなくなった森は今、コロナ禍で観光客が激減し、そのイベントも中止されているようです。

 

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