To cause a miracle by walk.〜歩くことで奇跡を起こす〜

歩く、もしくは足をしっかりと地面に踏み下ろすというのは、私たちが「思っている以上にスピリチュアルな行為」だといえるでしょう。

【歩くことが不思議な効果をもたらす?】

「歩く」というのは、陸上で生活する動物にとっては「基本的な動作の一つ」です。

それだけに歩き方というのは重要であり、ファッションモデルは「美しく見せる歩き方」を学びますし、「体を整える為の歩き方」などというものも存在しています。しかしながら、歩くことがそのまま「スピリチュアルな効果をもたらす」という方法があったことは意外と知られていません。

「反閇(へんばい)」もしくは「禹歩」と呼ばれる歩き方には、「様々な奇跡を起こす力がある」とされています。その起源にはいくつかの説があるのですが、最も有名なものとして、中国の伝説的な古代王朝である「夏」を治めていた「禹王」が由来というものがあります。

この王様は伝説的な存在であり、人間というよりも「神様に近い存在」なのですが、足が不自由だったといわれています。そのために、常に片足を引きずるように歩いていたことから、禹歩が誕生したとされています。もともと、神様に近い存在だったために、その動きをまねることで、強力なパワーを得ようとしたのかもしれません。

【万能の呪法である禹歩】

道教や神仙思想について記された『抱朴子』という書物があります。今から1700年近く前に書かれたとされるものですが、こちらにも禹歩のことが書かれています。それによると、山に入るときに禹歩を行うことで、「悪霊や悪獣から身を避け、霊薬を得やすくなる」、また、「病を治療したり、場合によっては鬼神の召喚にも使える」などと書いてあるのです。

歩くだけで、かなり広範囲な奇跡をもたらす禹歩ですが、日本に入ってきて「反閇」という名前になってからは、主に「邪気を祓い、地を浄める」といった効果にフォーカスされています。この力はかなり強力だったのか、今でもいくつかの「伝統芸能にその名残を見る」ことが出来るのです。その中には、皆さんが一度は目にしたことがあるというメジャーなものすらあります。

【相撲や能に残った反閇】

そのメジャーなものというのは「相撲」。日本の国技とされているだけあって、相撲は元来「神事と深く結びついており」、さまざまなスピリチュアルな要素が含まれています。そんな相撲の特徴的な動作に「四股」があります。こちらはまさに「反閇」の一種なのです。

相撲の横綱が注連縄を締めているのは、強力な力を持つ神様的な存在であることを表しています。そんな存在が「浄化の力を持った塩をまき、四股を踏むことで大地を清め、悪霊を祓っている」わけです。

さらに、能の演目のひとつである「三番叟」には、そのものずばり「反閇」と呼ばれる、「足を持ち上げて踏み下ろす動作」があります。この演目は足拍子を力強く踏むことが特徴ですが、五穀豊穣を願うために、反閇によって地面を浄めているといわれています。

【陰陽師も使っていた反閇】

このことからもわかるように、禹歩と反閇では若干差異があるようです。禹歩は歩行法であり、北斗七星の形をあらわすように歩いたりすり足で歩いたりするのに対して、日本で使われる反閇は歩行法よりも、地面をしっかりと踏み下ろすところに重点が置かれているようです。

ただし、「平安時代の陰陽師は、北斗七星などの形で地面を踏む反閇を行っていた」という説もありますので、時代と共に変容してきたというのが正しいかもしれません。

若干の差異はあるものの、歩く、もしくは足をしっかりと地面に踏み下ろすというのは、私たちが「思っている以上にスピリチュアルな行為」だといえるでしょう。

今でも、お祭りなどで反閇を行っている地域は比較的多くありますので、なにか、不思議な歩き方をしているなぁと思ったら、どんな風に動いているのかを注目してみても面白いかもしれませんよ。

To cause a miracle by walk.
Remaining magic in traditional Japanese culture.