タイの教えは、すべての動作を
マインドフルに行うということ。
TRINITY50号でご紹介しました、禅マスターティク・ナット・ハン師の庵”プラムヴィレッジ”での体験記をもう一度お届けします。体験取材だからこその空気感。ハン師による幸福感溢れるお言葉、日々の生活への感謝、歩く事の大切さを記事と映像で実感しましょう。
今ここに在る奇跡に感謝
5時半からのシッティング・メディテーション(座る瞑想)に始まり、朝食の瞑想、ウォーキング・メディテーション(歩く瞑想)と続いていくリトリート。昼食の瞑想が終わると、法話や、ダルマ・シェアリング(参加者間のわかちあい)があり、プログラムの合間には、参加者が自主的に食事の下ごしらえや、枯れ枝のお掃除を行います。想像していたよりも忙しく、空いている時間に読もうと持参した本は結局開かずじまい……。慣れない場所での生活のストレスも相まって、2日目にしてイライラはピークに……本当にこれでマインドフルになれるんだろうかと、ふと不安がよぎります。
3日目、いよいよ待ちに待ったティク・ナット・ハン(釈一行)師の法話を聴けることになりました。ここでは彼のことをベトナム語で先生を意味する「タイ」という愛称で呼んでいます。法話の内容は、私にとってはまだ少し難しかったけれど、タイの穏やかで、かつ凛とした姿がとても印象的。眺めているだけで、心が洗われるような……「“月”のような人だな」と思いました。
タイの教えは、すべての動作を
マインドフルに行うということ。
心ここにあらず……ではなく、常に今、起きている事を、自分が知っているという状態。これ、簡単そうで実はすごく難しいんです。たとえば、食事の時間は、食べることに集中します。いただく食べ物が、自分の目の前に出て来るまでに関わったであろう、数多くの人々や大地の恵みに感謝をして手を合わせ、食事を共にする人たちとにっこりほほえみを交わし合う。口に入れた物は、液体になって、自然に喉を流れていくまで、ただただ静かに噛み続ける……といった具合。食事は、とても美味しくて、いつも山盛り頂きました。
ウォーキング・メディテーションは、時速1キロ?と思うようなゆっくりとしたスピードで一歩、一歩、踏みしめながら進みます。りんごの皮向きも、部屋のお掃除も、すべてはマインドフルネスのトレーニング。忙しさは変わらなかったけれど、数日を過ごすうちに、心の波は次第に静まっていきました。そして、滞在5日目の夜の瞑想では、目を閉じた途端”すとーん”と、深いところまで入ることができたんです。なんと頭で理解しようとしていたマインドフルネスが、実践を通して自然と身体に染みこんだようです。プラムヴィレッジに暮らす唯一の日本人、シスターチャイが、「リトリートには最低1週間滞在して欲しい」と話していた、その理由にも納得。
帰る頃には、「今度はいつこようかなぁ」「サマーリトリートにしようかな、でも6月は毎日タイの法話が聴けるらしいよ」なんて、参加者と話している自分がいたのにはとても驚きました。集団生活によるイライラから始まり、感謝や涙や優しい微笑み。私に起きた変容は、とても大きなものでした。
ティク・ナット・ハン(釈一行)
1926年、ベトナム中部生まれ。禅僧、平和、人権運動家、詩人。世界的に知られた精神的指導者であり、その卓越した教えは全世界に影響を与えている。
Special Thanks:taisuke Yoshida,Plum village Mindfulness Practice Centre,Atsuko Isono Bisnaire
TRINITY50号より