科学で証明しきれない神秘を秘めた鳴釜神事

この釜鳴について、茨城県立高校で理科を教えている「小林義行先生」は、水蒸気の相変化によって自励振動が起こり、それによって音が出ているものであり、珍しい現象であるとしています。

【お釜を使った神事】

お正月ということで、おみくじなどをひく、福袋を買うなどといった「運試し」をされたという方も多いかと思います。運、すなわち、運命を知るための占いには、さまざまな種類があり、占星術や紫微斗数、四柱推命のように「緻密な計算によって、運命を導き出すもの」もあれば、タロットカードやおみくじのように、「偶然による導きによって運命を示すもの」もあります。

今回紹介するのは、どちらかというと後者に位置するものですが、その原理には科学的な裏付けがありながらも、それだけでは説明しきれないこともあるという、とても神秘的な占いであり、神事でもあるのです。それが「鳴釜神事」。

 

【神聖な炎とお釜】

こちらは、岡山県にある「吉備津神社」で行われるものが有名です。「鳴釜神事」というのも、基本的にはこちらで行われるものの名称となります。吉備津神社には、「御釜殿」という建物があり、こちらでたかれている炎は、ずっと絶やさずに灯し続けられているものであり、とても「神聖で清浄なエネルギーを感じることができるもの」です。

そんな御釜殿で、御祭神に祈ったことが神意に叶うか、つまりは、願いが叶うかどうかを占うというのが、鳴釜神事となります。この神事は、神官と阿曽女と呼ばれる、いわゆる巫女の2人で行われます。

まず最初に、阿曽女が釜に水を入れて、それを湧かして湯にします。次に、その釜の上に蒸籠をのせます。そうして神官が祝詞を奏上するのにあわせて、阿曽女が蒸籠の中にお米を入れると、「おどうじ」と呼ばれる音があがります。

この「音の大きさや、長さによって吉凶を判断する」のです。その判断は、面白いことに神官や阿曽女が行うのではなく、参加した依頼者が、聞こえた音からどんな印象を受けたかで決めるのだそうです。

どうして、このような神事が行われるようになったのかという由来について、吉備津神社では、「温羅という鬼を御祭神が退治した話」に求めていますが、こちらは倒されたはずの温羅が、なぜか改心して釜によって託宣を伝えるようになったというものであり、ちょっと御都合主義的な感じがあります。

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【各地で行われている鳴釜】

御釜殿の存在や、その知名度から吉備津神社の鳴釜神事があまりにも有名ですが、実は同じような「釜を使って、音を出すという占い」は修験道や、お稲荷さんで有名な稲荷大佐でも行われています。

「稲荷釜」「不動釜」「鳴り護摩」「釜鳴り」など名称は異なりますが、基本的に釜と蒸籠を使って音を出すという原理は変わっていません。ただし、吉凶の判断は音が出るかどうかで行うことが多いようです。

 

【釜から音がでる原理とは?】

なぜ、釜の上に蒸籠を載せて、そこにお米を入れることで音が出るのでしょうか? こちらは、ある程度科学的に原理が解明されています。一般的にはお米と蒸気の温度差があることで、音が生じる「熱音響」によって音が出ているといわれています。しかしながら、熱音響というのは、基本的には「かなりの温度差が必要」であり、鳴釜のように100度以下で音がでることは非常に珍しいとされています。

この釜鳴について、茨城県立高校で理科を教えている「小林義行先生」は、水蒸気の相変化によって自励振動が起こり、それによって音が出ているものであり、珍しい現象であるとしています。

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【穢れを感知する鳴釜】

とはいっても、音が出ること自体は科学的に解明されていますが、面白いことに、「鳴釜は科学では解明できない部分が残っている」のです。それは、「特定の場所や状況では音がでなくなる」ということ。

こちらは、吉備津神社のように大きな釜を使ったものではなく、小型の持ち運び可能な釜を使う必要があるのですが、稲荷釜や不動釜などはこちらの小さいタイプを使うことが多いようです。この場合は、釜の上に蒸籠を載せた状態で、歩き回ったりします。そうすると、突然音がぴたっと止まることがあるのだそうです。そういった場所は基本的に「穢れている」とされています。

ですので、「トイレの側」では基本的に釜は鳴りません。また、依頼者に「不幸が迫っている場合や、ネガティブなエネルギーがある場合」も音は出ないのです。さらに、面白いことに、そういった場所から離れたり、釜の音がでない理由がわかると、音が出るようになるというのです。

科学的には音が出たり出なかったりするという理由は、どうしても説明がつきません。このようなことが起こるのは、「鳴釜には、神仏が降りてきており、そのメッセージとして音を発生させている」のだと、現在でも言い伝えられているのです。ちなみに、単なる吉凶を判断するだけでなく、釜から聞こえてくる音によって、浄化を行うという方法をとることもあるようです。

昔の日本ではどこの家庭にも必ずあった釜という一般的な道具を使いながらも、非常に神秘的な儀式である「鳴釜」。今では行う人も少なくなってきていますが、まだ伝承している方もいますので、どこかで行われているのを見かけたら参加してみると、新鮮な体験が出来るはずです。

Divination using the kettle.
Kettle senses the negative energy.

 

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(吉備津神社写真:wikipedia)