ほんとうに恐ろしいヤマタノオロチの物語

西暦668年、草薙剣が新羅の僧によって熱田から持ち出されました。 けれども、逃げる船が難破し戻されたという事件が起こります。

スサノオによるヤマタノオロチ退治は、日本神話の中でも“姫を救う王子様”として女性が大好きな物語です。
筆者自身、子どもの頃に少女マンガの挿話として読みました。

けれども大人になったら見方を変えなければ真実はみえてきません。
「ヤマタノオロチは恐ろしくて醜い敵」と遠ざければ運も遠ざかります。
なぜなら、ヤマタノオロチはあなたの中にも潜む「荒魂(あらみたま)」であり自分自身の一つの現れなのですから。

ヤマタノオロチ退治の真実の物語は、人の中の根の国に棲む「荒魂」が神に上がっていくお話です。

ヤマタノオロチから日本の神剣・叢雲剣(むらくものつるぎ)が出ました。
邪悪なはずのオロチから宝物がでた事が、幼いころから荒魂の塊のようだったスサノオ自身のスランプを打ち破り神上がりさせたことの印です。

 

斬ったスサノオに祀られたヤマタのハヤコオロチ

ハヤコオロチはスサノオによって斬られ、出雲の山に平穏が戻りました。
ホツマツタヱによれば、犠牲になった8姫とオロチは、スサノオによって一緒に祀られたとあります。
つまり、スサノオの荒魂の依り代となったハヤコへの贖罪、あるいは慰労の気持ちがあったのだとも読み取れます。
8姫、それは八剣の由縁です。

言いかえれば、ハヤコと8姫が“天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)”を作った陰の功労者なのです。
スサノオによって丁重に祀られたことで、ハヤコや8姫は神上がって行きました。

神話の中の八岐大蛇は“邪悪”でしかありませんが、その働きが日本に必要な力を目覚めさせた功労にはキチンと報いるべきであり、スサノオはそれを行っていたのでした。

 

大祓祝詞の中に登場するハヤコヒメ

神上がったハヤコヒメは祝詞の中に登場します。
ヤマタのハヤオロチは、大祓祝詞の最後に登場する“速佐須良比咩(はやさすらひめ)”と考えられています。
ハヤコがさすらいの罪人であったので、大祓祝詞の中で「ねのくにそこのくににしずまります はやさすらひめ」と名づけられています。

大祓祝詞は、神社でお祓いを受ける時神職が読み上げる祝詞です。
ハヤサスラヒメは祓戸に封じられ、祓いの神様としてのお働きを今もされているのです。

スサノオに祀られて神として昇天したハヤコヒメは、次はヤマズミの娘として生まれ変わります。

 

コノハナサクヤヒメに意地悪したイワナガヒメ

コノハナサクヤヒメは富士浅間神社のご祭神で、富士山を守る女神さまです。
夫はニニギノミコト、父はオオヤマズミ、姉はイワナガヒメです。

気立てが荒かったのか、天孫ニニギに気に入られた妹とは逆に、イワナガヒメは家へ帰されてしまいました。そこで妹を妬みウソの噂を流します。

「妹がたった一晩の契りで子を成したなんておかしくない? 妹の腹の子は他の男の、子に違いない」そのような噂を流し天孫ニニギの耳に入れることに成功しました。
噂を信じたニニギは、サクヤヒメを置き去りにします。

しかし、そこで怯まないのはさすが内宮に納まるお方です。
三人の子と諸共に出口のない産屋に火を放って三人とも死なせず、天孫の子であることを証明して見せます。
季節外れの桜の花を咲かせたことも証明となりました。

そのことによりコノハナサクヤヒメの名を贈られたのです。

逆境が、日本の将来を託す皇子を守り抜く決死の覚悟をサクヤヒメに決めさせたとすれば、国母ともいわれるご神威が、イワナガヒメの意地悪で開眼したともいえます。