天叢雲剣をうみだしたヤマタノオロチの物語

天照大御神の治世には、スサノオが生まれて以来、嫌悪し続けていたスサノオ自身の“荒魂”を正しく取り扱う力が必要だったのです。

オロチの錬金術

天照大御神が製鉄の方法を臣たちに話しているくだりがホツマツタヱにあります。
当時すでにもののけ姫に登場したような“たたら製鉄”が行われていたことが伺えます。

安芸(ヒロシマ)の山地で炭焼きが盛んなのは、この地で製鉄が行われていたからです。

たたら製鉄には大量の炭を必要としていました。

ハヤコは、たたら製鉄の製造工程のなかで炭焼き業を行う山子(ヤマゴ)の妻となってスサノオを探し出す方法を画策していたのでしょう。
斐伊川の川上に移動し、たたら者とのつながりを次第に深め、力と財力をもっていったと考えられます。

 

たたら者と里人の反目から生まれた「オロチ」

たたら製鉄は山内(サンナイ)に富をもたらしましたが、一方では里人を苦しめていました。
たたら製鉄の工程で行われるかんな流しという、山を切り崩して砂鉄をとる作業が、川の下流に洪水をおこし、農作物をダメにしたのです。

また、鉄を溶かす炉のそばに人の死体を金屋子(カナヤゴ)神に捧げる行為も行っていたといいます。

そうすると剣の原料である良い玉鋼(タマハガネ)ができるというのです。

後にスサノオの妻となるイナダヒメの上の姉妹は7人までオロチの犠牲になったとあります。
炭焼きや製鉄のために出雲の山々には常に叢雲(ムラクモ)が立っていたのでしょう。

そうした人々のことを災いの元凶として里人は捉え「オロチ」と呼んだとも言えます。

 

主スサノオへのハヤオロチからの捧げもの「剣と財」

オロチの最初の犠牲者はハヤスウヒメでした。

村長の兄弟の娘でありスサノオが宮津で初めて見染めた姫です。
ハヤスウヒメを人柱にしたのはスサノオをおびき寄せるためだと考えられます。
そして7人の犠牲が出たときに、いよいよスサノオが現れます。

「未来の皇」と祭り上げたいスサノオがやっと姿を現したのです。
世界有数の和鉄が眠る山間を埋め尽くす“叢雲”の中から取り出した最高の剣と、たたら場という財源を主に捧げたいハヤコは深く安堵したことでしょう。
ハヤコにとっては、自らオロチと化してでもスサノオの荒魂(アラミタマ)を鎮める必要がありました。

天照大御神の治世には、スサノオが生まれて以来、嫌悪し続けていたスサノオ自身の“荒魂”を正しく取り扱う力が必要だったのです。
スサノオと再会したその日がハヤコの死ぬ日となりました。

荒ぶる神はスサノオによって斬られ、美しく光り輝く剣が生まれたのです。

天叢雲剣の荒魂であるとされる八剣大神がなぜ「八剣」なのかというと、ハヤコを入れて8人の女性が人柱となって生まれたからではないかと、筆者は思います。

 

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