伽座守珊瑚の開運『狼語り狐語り』第8話~先輩眷族から後輩眷族へのアドバイス

所は現代の東京。下町の片隅を舞台に、狼眷族『グラウ』と狐眷族の『甚六』が織り成す、面白おかしな物語……。今回のお話しは、何やら『甚六』が、『グラウ』と知恵比べの様子……?

眷族狼のグラウは呆気に取られていた。
稲荷狐の甚六が色々勝手に手配してグラウの依り代を引っ越しさせ、祠の近くに住まわせたのだ。元々近い所にいたが、今は目と鼻の先だ。現生の依り代について説明も紹介もしてないのに、どこの誰か知られていた。

 

狐語り……狼眷族『グラウ』への気配りとは

眷族狼は神社(お山)から離れて働く期間は神札か、依り代のどちらかに憑く。どちらの場合もその周囲から勝手に離れて行動出来無い。行動範囲は依り代と眷族の霊力に比例して広くはなるが、いつも自分の近くにいる人間が依り代だと、付き合いの長い甚六には知られてしまう。

「楽だろう。呼ばなくても来れる範囲だし。」
甚六が悪びれずに言う。狼が楽よりも狐に便利なのは明白だ。

グラウは夜空を見上げると「寺が多いな、どれも『おはかビューマンション』だ。このご時勢なのに風呂屋もあちこちにある。」近くにある高級施設の名を揶揄して答えにならない返事を返した。

「町工場(まちこうば)と稲荷社(いなりやしろ)が多いと言いたまえ。前居たとこより静かだろう。ああ14階から6階に落ちたのは気にくわないかい?。」

「『落ちた』じゃなくて『なった』だろ。依り代は敷金礼金運送屋、エライ出費でいい迷惑だったろうよ。まあ依り代本人は何にも知らないか。」

下町(1)

 

グラウが文句を言いつつも、無駄話や仔猫の様子を覗ける機会が増えた事を喜んでいるのが甚六にはよくわかる。甚六は良い土地の良い部屋を手配した自負から、さらにこう言った。

「この辺は地面の気が良い方だから、本当はもっと下の階に住んでもらっても良かったんだが。」

眷族たちは狭い・広いなど人間の住処に関しては何とも思わない。人が一人でも家族とでも雨風しのいで生きて行ける巣があればそれで良い。『住人の数より部屋数が少ない方が人間は幸せに暮らす』と経験的に判断する。高層の高級マンションは、大きな墓石に見えるが、地面がもったいないから人間は高層集合住宅に住むべきと思う。

甚六は人間の稼ぎには興味があるものの、自分には地面にへばりつく祠が一番心地いい。

昔の人は自然に気脈の良い所を住居や集落にしたから、地面の上や横穴の住居に暮らすだけで気脈龍脈=大地の力を体や魂に取り入れる事が出来た。土地に流れる力の強さによるが、平地ならば海抜何メートルであろうとも大地の力の恩恵が及ぶのはわずか地上十数メートルだ。

甚六が言った『もっと下の階に』は、その恩恵を受けられる4階以下の階を表わす。その意図を受けてグラウは甚六が選んだこの辺に普通によくある10階建て程度の建物の5階より上も悪くはないと伝えたくなった。

下町(2)

 

「高い建物になれば地面から空に抜ける縦龍脈ができる。五重塔とかはその力を生かす人工の集積回路かな。山も台地も天然の縦龍脈。塔の元のストゥーパは気脈の良い古代インドなら地面を盛り土しただけで済んだが、中国や日本だと塔や石積みにして縦龍脈を引き出す必要があった。大地の気に届かずとも、上の階は縦龍脈の気を浴びるからそれはそれで良いさ。」

「わかるかい。わかってもらえるなら嬉しいな。まぁ縦龍脈は高く作るほど流れで言うと早くて洗う力が強いから霊や土地の浄化になる。有名な高層ビルや電波塔は、誰の差し金か知ら無いが縦龍脈で何かあった場所を清めてパワースポットにする魂胆だな。何十階もあれば縦龍脈が強いから下の階でも怠け者がうっかり住んだら、怠惰とか洗い流されて才能開花せざるを得無いようなクソ忙しい人生になる。
開運間違いなしだ。悪い気以外にも付け焼刃な名誉や分不相応な財産も洗われてしまうから、基礎や人材の無い会社や人の褌で相撲をとって成り上がった者はいずれ出ざるを得無くなる。才能を見出してもらいたい勤勉で野心の有る者には住んだり勤務するにふさわしい建物ってことになるかな。」

甚六は楽しそうにグラウの知識に対抗する。そうこうするうちに一連のやりとりは甚六の部下たちや猫の『ちゃ』、そして物見遊山で顔を出した近隣の稲荷狐たちが自分の知識を広げるために聞き入ろうと2匹を囲むようになっていた。眷族たちはそうやって知識や経験を共有し、人の暮らしや物事の解決策を知り、神仏の役に立つための学びとする。