伽座守珊瑚の開運『狼語り狐語り』第4話〜『狐眷族』名刑事(?)甚六の事件簿〜

所は現代の東京。下町の片隅を舞台に、狼眷族『グラウ』と狐眷族の『甚六』が織り成す、面白おかしな物語……。今回のお話しは、下町界隈に《ぬいぐるみが行方不明になる》という奇怪な事件発生でございます!

狐語り……『狐眷族』甚六の名刑事ぶりをご披露!

その夏の日は暑かった。小さな稲荷の祠の眷族狐、甚六は、夏休みに入った近所の子供何人かが、祠に同じような頼み事をしてきた事が不可解だった。それは、界隈で何件も《ぬいぐるみが行方不明になった》ものだ。

まぁ勿論人間の警察が扱う事件ではなく、祠に「見つかりますように」「誰かが持って行ったのなら返してくれますように」などの願いが寄せられたわけだ。

小さな祠にはこういった無邪気な依頼がよくある。その度に甚六は目を細めて優しくかわいい依頼主の心を慰め、部下の眷族狐を遣わす。簡単な依頼は神様ではなく甚六のような高位の眷族が仕切る。

今までなら部下の眷族狐が間違って遊び相手の持ち物を持って帰った子がいて気がついて返しに来たとか、家具の裏を掃除したら出てきたとかいう流れになるように仕向けて、見つかるように助ける事が出来た。

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なのに今回は何だか違う、見つからない。眷族狐は今そのぬいぐるみを持つ《人》を探して回ったが、持っている人物が見つからない。誰かが燃えるゴミに捨てて焼却されてしまうと、神様だって復元できないから、困る。

周囲の人の心を覗いて回るかぎり、隠した、捨てたという記憶は見当たらない。捨てられたわけでも無いようだ。今時の子供は5円や10円を賽銭にして近所の神様に祈りもしてくれるが、net経由で情報を拡散させもする。

個人の悩みだと思っていたことが「えっ私も」「私も」と知られて行くうち、ぬいぐるみの行方不明が半径50メートルも無い狭い範囲で起きていた事が判明する。塾や習い事に追われておもちゃと遊ばなくなった子たちもそれが《有る》ことは大切で《無い》というのは心痛らしい。

甚六は気が短い方なので、この手の依頼が宵越しになるのは気に入らない。

こういう時は、部下たちのセンサーレベルを上げる。

人間の出来の悪い上司なら「まだか」と怒って部下を恫喝するのだろうが、甚六は能力のある稲荷眷族なので、部下たちが物に残された微細な持ち主の波動を探せるようにした。

人間はここで「じゃあ最初からそうすれば」と思うだろうが、それは神様が許しては下さらない。

部下たちが自分の持っている能力で全力を尽くした努力や真心に対しそれに相応な上位の力を開いて与えるのが眷族世界の上司には許されている。経験値を積んでレベルが上がるのはRPGみたいだ。

結局、このぬいぐるみ失踪事件は、近所の金持ちの家の《飼い猫》が、口に咥えて自宅の超豪華で清潔な寝ぐらに運んでコレクションにしていただけで、飼い主が全て菓子折りとクリーニングしたぬいぐるみに詫び状を添えて持ち主に返し、事なきを得た。

部下たちが《人》を探した初動捜査の誤りはあったが、解決までの経緯は甚六と部下たちが手配し、ぬいぐるみを咥えた猫の目撃と、その猫が何処の猫で……net繋がりで集結した子供たちが探偵ごっこする気分で猫の飼い主の家に辿りつけるように助けたのだ。

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猫の飼い主に、美味な菓子をお詫びに添えさせたのも稲荷狐ならではの配慮だ。いつも祠に菓子を供えてくれる店で買わせた。金持ちにとって痛くも何ともない出費だ。菓子屋は菓子をもらって食べたぬいぐるみの持ち主の親たちが美味しいと感激して客になり、さらに口コミで客が増える。こういうところ稲荷眷族はソツがない。

人間次元の事件は、それで解決した。