伽座守珊瑚の開運『狼語り狐語り』第21話~狼眷族『グラウ』。見習い眷族仔猫の『ちゃ』の過去を手繰る~

狐眷族『長老』。本音を言わないこのクセモノ……。見習い眷族仔猫について問いかけられる。狼眷族『グラウ』が視た『ちゃ』の過去とは?

「ワシはなぁ……」長老はにゅーっと目を細めた。狼のグラウは狐がにゅーっと目を細める時は本音を言わないのを経験してきていた。

グラウはその瞬間に諦め、礼儀として質問の取り消しをした。
「言う気なんか無いよな。ジイさんよぉ。」
自分たちに纏わる衝撃的な過去を知って、当事者三匹だけが元気がない。それに対して祠に集った観衆は、近所の神社や史跡の裏の真実を見聞き出来て大興奮の大喜びだ。

 

【 狐眷族『長老』の本心や如何に…… 】

「ところで猫殿はどうなった。協力な加持祈祷で仲良く同じ鞘に封印されてしまったのが狼のグラウと狐の甚六だったなら、仔猫の『ちゃ』は何処にいて何をきっかけにここにいるのかな。狼よ、もちっと時間に潜ってみてはくれないか。」

長老は自身に関する質問にはとぼけたまま、話の矛先を仔猫霊の『ちゃ』に変えた。

「『ちゃ』が知りたいと願うなら潜れるはずだジイさん。ちゃーくん、いいかい?」
グラウは長老に答えたまま仔猫に意思確認をすると、仔猫は「にゃ」と短い声で了解の意思を表した。グラウはちゃの、深い過去の時間の中に意識を沈ませた。

過去へのアクセス

 

【 狼眷族『グラウ』が見習い眷族仔猫『ちゃ』の記憶を手繰る…… 】

さきほどの戦いの場面に出くわすことを予見していたが、冬景色の中の小さな社が見えてきた。時刻は昼だろう、社殿の正面から長く陽が差し込む。
たどり着いた時間は、先ほど見せられた戦いの数日前。戦場からそう遠くはない。
そこには三人の巫女を囲み、十数人の武将と女たちが居る。猫も何匹か見える。
男は皆、将門勢の兵士たち、女はその妻子たちか、皆平素は領地の農民だ。
社の床には梅の種を細工した鈴が沢山、器に盛られ、神様の力を鈴に繋げる儀式を施されている。

香草を燻した空間の中、年長の巫女が集う人に声をかける。薬葉だ。
「この鈴を身につければ、人の耳には聞こえ無い響きが鳴り渡り、神使が皆を守ります。敵の滅びの呪詛が発動したとしても、身代わりに鈴が砕けて守られるはず。生きてください。生きて田畑を実らせて、皆の命が栄えるように。」

鈴 

 

鈴を分け与えられた人々が声を押し殺して泣いている。
戦の勝ち負けは分かっているかのようだ。
平将門=平小次郎将門は死ぬ戦に挑むのかと。

他の二人の巫女は、猫たちの首に梅の種の鈴を付けている。
「体があればタチバナにも付けてあげたのにね。」
「タチバナはサガミやミヤマと同じ、妙見様と八幡様の星を頂いているから大丈夫。」