伽座守珊瑚の開運『狼語り狐語り』第19話~狼眷族『グラウ』。遠い記憶から蘇る平正国との出会い、そして平将門を護る覚悟!~

グラウは遠い過去の時間にさかのぼり、まだ少年だった頃の『平正国』と出会ったのです。そして三峯の分社を建てた理由と、将門への護りが必要な理由を聞かされるのでした。そこには壮絶なドラマが……。

グラウは自分の思い出しかけた白狐を連れた年の頃17歳位の狩衣装束の平正国との出会いの記憶を、遠い過去の時間の中に追いかけてみた。

承平七年(937年)当時三峯神社のお社付きの眷族のグラウは、現代の地図でいう栃木県の南端に三峯神社の分社が勧請されると言うので、そこの分社を守る龍や狼たち眷族を、本社(ほんやしろ=秩父の三峯神社)から分社へ連れて来る役目を神様から仰せつかった。

引率役のグラウは分社に眷族を無事に届けたら山深い秩父に戻るはずだった。
しかし、その分社の勧請を行ったのは舟小屋の事件を機に、密かに京から坂東へ戻っていた17歳(数え歳、現代の満16歳)の平正国だった。

 

優れた霊能力を持つ正国がグラウの霊力に気付かぬわけがない。

祭神に願い出てしばらくの期間、父平将門の護りとなるように話を付けてしまった。

もちろんグラウに無断でではない。
グラウはこの物静かな青年から(現代ならまだ少年な年齢なのだが)この地に三峯の分社を建てた理由と、将門への護りが必要な理由を聞かされる。

将門を救う為では無かった。

「このままでは、この国と人々が滅ぶ。
それを防ぐために、この地にて父は大きな賭けに出る。
認められるならば封印の仕掛け手とならむ。
願い叶わず果てたれば、父が自らを封印とせしねむ。」

それは、かつてこの東国に仕掛けられた《血族が争う呪い》・《水難の呪い》に気付き、それを皇孫として封じるか解かねばならぬ事に目覚めた平将門の悲願を援護する結界だった。

度重なる地震・火山の噴火、河川の氾濫などで、坂東における日本武尊による《呪詛の封印》は、緩んでいた。

封印

 

将門が伯父たちとの衝突の挙句、舟小屋の襲撃で妻子や側近までを亡くし、心が闇に堕ちかけた時、穏やかな響きが将門の意識に呼びかけてきた。

「何故、親戚・親子・同胞が争うかと? それは神代の時代、ヤマトが東国を平定するために大地に仕掛けた呪いです。まだヤマトに従っていなかった東国の人々を、身内による裏切りと殺戮と水難で弱らせ、人の絶えた東国の地をヤマトの地にした。

ヤマトの支配下となったならば、呪いは解かれねばならなかったが、解かれぬまま、封印だけされてかろうじて人々が住んできた。呪いの実在を知った以上、仕掛けたヤマトの王の血筋を持つ者として、命の責任をもってこれを解かねばなりません。

解けぬというのならば、いつの日にか解ける者が呪いを解くまで、その呪詛を封印し続けねばなりません。戦さを仕掛ける親族もまた、呪いに依って狂った舞を舞わされたにしか過ぎぬもの。

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大地を血や泥水で汚し、この山河をお産みになられたイザナギ、イザナミの神を嘆かせてはなりませぬ。其方は領地や弔いのために戦うに非ず。大地山河は生き物と人の喜びの場で、誰かのものではない。人が喜びをもって大地山河に生きられるように。

治めよ、この地。ヤマトの皇孫。

それは仏教を取り込んで山岳修験の場となった秩父の妙見菩薩、八幡大菩薩が告げる、三峯の祭神、伊弉諾 伊邪那美の願いだった。
平将門は、この時代に皇孫の血をもって坂東に生まれてきた意味に目覚めたのだ。

 

その平将門の決意に私欲のひとかけらも無いありさまを感知したグラウは、自らの意思で『依り代付き』になったのだ。

しかし将門さまにはすでに伯父たちから多岐にわたる呪詛が仕掛けられており、将門さまを依り代にする事は出来ない。

将門さまと常に行動を共にし絶対に裏切らない側近の一人を依り代にした。その側近は鞘に四神獣の柄が彫られた太刀を持っていた。

四神獣の刀

 

「あーっ。江戸時代に天海さんが甚六さんとグラウさんを取り出した太刀の鞘って、それでしょぉ。」
異口同音に観衆の狐たちから意思の声が響きわたった。

観衆はその予測の答え合わせを望んでいる。グラウは観衆達の願望に引っ張られて、鞘に封印された顛末の時間軸に心ならずもアクセスさせられてしまった。

グラウの制御でない分、観衆は意識がぐるぐる回りながらその景色にたどり着いたが誰も文句は言わなかった。