社会心理学者の八木龍平です。今回のテーマは「真の日本最強の神様」です。漫画や小説で、物語の序盤に最強とされた存在が実は最強ではなく、真の最強の存在がいた、いやいや、さらにその背後に真の真の最強がいたなんて設定がありますね。日本の神様にも、そんな「真の真の最強の神様」がいます。
「きっと、天之御中主神（アメノミナカヌシ）か国常立尊（クニノトコタチノミコト）だろう」と神話を知る方なら思われるでしょうか。どちらも天地開闢の始めにあらわれた始源神で（始まりの神＋根源の神）、宇宙を創造した究極の神様とされます。
ただ、始源神に最強という表現はふさわしくありません。最強は強さを比較する相手がいて生まれるもの。始源神は全ての源ですから、比べる相手はいません。全ての神様、全ての人、全ての動植物、みな始源神です。
では、何をもって「最強の神様」とするか？ ここでは神様を信奉した人々がどれだけ活躍したかで判断します。日本の天下を取った一族が信奉する神様は、日本最強の神様だとするのです。
私が思う「真の真の最強の神様」は、アヂスキタカヒコネです。アジスキ〜ともアジシキ〜ともされます。漢字表記は略しますが、名前にヒコが付くので男神です。雷神、蛇神、剣や鉄器の神、名前のスキ（鉏）から農具の神ともされます。父は出雲大社のご祭神である大国主神（オオクニヌシノカミ）、母は宗像三女神の長女で一般人立ち入り禁止の神域「沖ノ島」の神タキリビメです。
私も神社に参拝して、雷神と感じました。アヂスキタカヒコネを祭る奈良の高鴨神社を参拝した後、近くの葛木御歳神社（摂社でアヂスキタカヒコネを祭る）でアヂスキタカヒコネの話しをしていたら、雷が落ち、神社の給湯器が壊れたのです。
雷神アヂスキタカヒコネの別名は迦毛大御神（カモノオオミカミ）。神に対する最上位の敬称「大御神」と称えられる神は、他に天照大御神（アマテラスオオミカミ）と伊耶那岐大御神（イザナギノオオミカミ）の二神のみです。この二神は日本神話では主役級の神様で、アマテラスは天皇家の祖神、イザナギはアマテラスら多くの主要な神々および日本列島を生んだ神様とされます。
一方、神話のアヂスキタカヒコネは端役で、裏切りが発覚して殺された神様の葬儀で暴れただけです。古事記や日本書紀の記された時代、アヂスキタカヒコネを祀る一族が没落していたため、軽く扱われたと推測されます。その祀る一族とは鴨（賀茂）氏、そして歴史に残る日本最初の天下人である葛城氏です。
葛城氏の始祖である葛城襲津彦は、実在が確かとされる最古の日本人（倭人）。ヤマト王権の外交と内政を主導し、娘の磐之媛は仁徳天皇の皇后となって３人の天皇を生むなど、藤原道長のような最強豪族でした。第16代より第24代まで９天皇のうち、実に８天皇が葛城氏の娘を后妃か母とするほど天皇家との結びつきが強く、まるで男系が天皇、女系が葛城氏です。また鴨（賀茂）氏も、第１代天皇から第３代天皇までの皇后は、鴨（賀茂）氏の始祖の娘や祖神の娘でした。天皇と対になる最高権力者の一族が祀った神様ですから、最強の神様にふさわしいと考えます。
アヂスキタカヒコネを祀る代表的な神社は奈良県御所市（ごせし）の高鴨神社。京都の上賀茂神社や下鴨神社など、全国にあるカモ（賀茂・鴨・加茂）神社の総本社とされます。高鴨神社のある御所市は初代天皇から６代天皇の頃まで首都の多くがあった「日本最初の首都」で、アヂスキタカヒコネは「日本最古の最強の神様」なのです。
ただ「続・日本紀」によると、高鴨神は大和葛城山で第２１代雄略天皇を怒らせて土佐国に流罪となり、奈良時代に鴨（賀茂）氏の尽力で再び大和国の今の場所に祀られたとあります。この高鴨神を祀る大和国の神社が高鴨神社で、流された土佐国で創建された高賀茂大社が現在の土佐神社。土佐神社は、近現代も特に格式高い神社の一社で、中央政界から追放されても、アヂスキタカヒコネは最強クラスの神様といえるでしょう。
アヂスキタカヒコネは、特に厄除けや災難除けに霊験あらかたです。神話でアヂスキタカヒコネは、長い刀剣をふるい、うん百キロ以上遠くまでモノを蹴飛ばす怪力で、死の穢れを吹き飛ばしました。気分が落ちている時、疲れがたまっている時など、ネガティブな時に取り憑く悪いものを吹き飛ばす強いお力があると考えられます。
厄除けや災難除けに強い神社といえば京都の上賀茂神社もそうです。主祭神は賀茂別雷命（カモワケイカヅチノミコト）ですが、室町時代の「賀茂之本地」ではアヂスキタカヒコネと同一視されます。同じ雷神で、鴨（賀茂）氏の祀る神様と共通点は多いですが、賀茂別雷命は謎の神様です。京都最古の神社のご祭神で、京都が首都になって以来、朝廷から特別崇敬されたにも関わらず、古事記にも日本書紀にも登場しません。天皇家と特に関わりなく、鴨（賀茂）氏の地方神という位置付けです。千年の都・京都最強の神様の正体が、実はアヂスキタカヒコネなのだとしたら、今でも最強の神様なのかもしれませんね。
（トップ画像／葛木御歳神社の空）
