一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.64 「アゲイン 28年目の甲子園」

実在の「マスターズ甲子園」を舞台におじさんたちがパワー全開!

28年前の止まった青春が動き出す
マスターズ甲子園に熱狂するおじさんたちに感動!

もう話や展開はだいたい分かっているのに、泣かされてしまう映画がある。

それは、スポーツものに多いような気がする。またそのスポーツも、野球に多いような。そして、野球の映画って、ハズレはあまりないような気がするのだが……。

この映画はまさにそんな一本だ。展開は分かっている。でも、見事に号泣してしまった。高校野球、行けなかった甲子園、球児たちの夢、男たちの友情・・・キーになるテーマがどれも人の心を強く揺さぶるパワーを持っている。言ってみれば感動作にならない方がおかしい! という作品でもある。

マスターズ甲子園。元高校球児たちが再び甲子園を目指す実在の大会。昨年で11回を迎えたという。映画のストーリーは、元高校球児で現在46歳。離婚歴ありのサラリーマン坂町のもとへ、かつてのチームメイト松川の娘が尋ねてくるところから始まる。娘の美枝は亡くなった父親が、チームメイトに書いた年賀状27年分を一通も出さなかった理由を知りたいと思いつつ、今は「マスターズ甲子園」のスタッフとして働いており、坂町に参加を勧める。しかし、そこで思いがけず父親の起こした28年前の事件を知ることになる……。

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人生いろいろあるけど、
俺たち今日だけは17歳の高校球児さ!

この事件には哀しい訳があるのだが、それが解き明かされる後半は泣ける。そして甲子園での、泥だらけになってのおじさんたちの大活躍。若い日々と重ねる演出、回想シーン。今現在りっぱな中年である彼らの事情(主に家族の話)も絡め一気に感動させてくれる。

28年たって叶えられた夢、というのは凄みがあるものである。同時にそこには年老いた中年というみっともなさもあるのだが、そこに観客は多大に共感するだろう。

28年間いろいろありました。今現在もいろいろありますよ。でも、今日一日はあの28年前に帰るんだ! と、なにか気迫のようなものがフィルムに焼き付けられていたのは素晴らしいと思う。

娘の美枝に共感!
ラストはさわやかなショットで決着!

私がこの映画でいいな、と思ったのは、娘の美枝のキャラクターだ。
飲み会の居酒屋で、元チームメイトのおじさんたちに自分が事件を起こした松川の娘ということを知られ、責められ店を飛び出す。彼女を坂町が追ってきてなぐさめる。そして乱れたコートをちゃんと着せて、彼は美枝の父親のようにやさしく彼女に接する。この時の美枝のいたたまれなさ、悲しみ、そして坂町への好意。

すごく共感させられた。大好きな父親のことで罵られたらどんなに辛いか。

その想いを坂町は分かってくれる。嬉しい。すごく好きなシーンだ。この美枝の想いはラストシーンにつながっていく。

美枝自身も父親を通した彼女の中の呪縛のような「28年」に決着をつけたのだ。

観終わって、おじさんパワーも侮れないな、と感じた。いつまでも青春したいのは男たちの方かもしれない。

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■(C)重松清/集英社 (C)2015「アゲイン」製作委員会

■1月17日(土)~全国ロードショー

■監督・脚本 大森寿美男

■原作 重松清

■出演 中井貴一 波瑠 和久井映見 柳葉敏郎 門脇麦 太賀 工藤阿須加

■120分