「意外とスピリチュアルではない陰陽師」

「式神を使役し、鬼や悪霊を退治する」とてもスピリチュアルな力を持った存在というイメージが強い陰陽師ですが、実際のところは、「意外とスピリチュアルな存在ではありません」でした。

「陰陽師」といえば、多くの小説や漫画の題材となっています。
それだけに、先日も夢枕獏氏が原作で映画化もされた『陰陽師』が、ドラマスペシャルとして放映されたり、京都にある「晴明神社」は毎年のように多くの参拝者が訪れたりと、一時期ほどではないものの、相変わらず「人気を集めています」。
これらの影響か「式神を使役し、鬼や悪霊を退治する」とてもスピリチュアルな力を持った存在というイメージが強い陰陽師ですが、実際のところは、「意外とスピリチュアルな存在ではありません」でした。

 

【公務員だった陰陽師】

陰陽師は、「陰陽寮」という組織に所属している人たちのことを示します。
この組織は奈良時代頃に成立したわけですが、れっきとした「国家機関」であり、陰陽道を元にした職務を行っていました。
ここで「陰陽道」とはなにか、という疑問がでてきますが、よくいわれるような「木火土金水」の五行と、陰陽を元に霊に関わっていたというのは、後世に作られた誤解であり、本来、「陰陽」は「うら」と読んでいました。これは、現在の占いを意味しており、すなわち「占い」をするための部署だったのです。

国家機関で占いをするというのは、不思議かも知れませんが平安時代の貴族は「暦を非常に重視していた」ために、吉日や凶日などをしっかりと把握する必要があったのです。
占いはスピリチュアルな要素ではありますが、そのためには、天体の動きや時間というものを正確に把握しておく必要があり、陰陽寮では天体観測や当時の時計であった「漏刻」の管理等を行っていました。
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【陰陽師が占った怪異とは?】

そういった情報を元に、暦をつくったり貴族からの依頼で占いを行っていたわけですが、どのような時に占いを行うかというと、「怪異」が起こったときでした。
「怪異」というと、「霊的な異変」というイメージがあるかもしれませんが、これは「普段起こらないようなこと」を示します。その中には、霊的な異変も含まれますが、どちらかというと、「鳥の糞が肩についた」「外出したら動物の死体を見た」「犬の糞を踏んでしまった」といったようなものが、ほとんどだったのです。

こうしたことが起こった時刻をもとに、占いをしてそれがどういう意味を持つのかを、「六壬式占」という手法を使って判断していました。
このときに、霊などの影響であると判断される場合もあったようですが、基本的に「死霊などが原因の場合には、陰陽師ではなく、僧侶が派遣されて祓いを行っていました」。

 

【スーパースターはおじいちゃん】

このように、基本的には地味な役職が多かったのですが、現在まで名前が伝わる「安倍晴明」が登場したことで、ちょっと雰囲気が変わります。
晴明が表舞台に出てきたのは、「40歳前後」だといわれています。当時の平均寿命が40歳だったので、通常ならば、ほとんど死にかけの老人だったのですが、その年齢にもかかわらず、新しい儀式や祓いをアピールし、占いだけだった陰陽師の地位をあげていきます。
彼は最終的には80歳すぎまで長生きしたので、現在のイメージでいうと、80歳デビューで、160歳ぐらいまで生きていたことになります。
当時の人からすると、この長寿は驚異的であり、そんな「人間離れした年寄り」であることが、安倍晴明が話すことに信憑性を持たせたという可能性が高いのですが、これによって、陰陽師の職域が増えていきました。

 

【激動の陰陽道】

安倍晴明が地位を高めた陰陽道ですが、戦国時代に入って、「豊臣秀吉」が陰陽師などを嫌っていたために、激しい取り締まりが行われ、安倍晴明の直系である土御門家も排斥され、一時期陰陽寮自体が解体されてしまいます。
このときの排斥はかなり苛烈なものだったようで、平安時代から伝わってきた「儀式の資料などはほとんど散逸してしまいました」。
その後、徳川の時代に陰陽師が一時的に復権したときにも儀式自体は元に戻らず、明治時代には「正式に陰陽寮は廃止」されて現代にいたります。

現在でも、福井県には「天社土御門神道本庁というものがあり、そこが土御門家の系譜をついでいますが、あくまでも「土御門神道」であり、「陰陽寮でも陰陽師でもありません」。
また、儀式自体も神道方式になっており、秀吉による排斥の後に、なんとか儀式をそれっぽくするために、当時神道を統括していた「吉田神道」から教えを受けたものがベースになっていますので、先祖である安倍晴明のものや、平安時代の陰陽寮で伝わっていた技法はほとんど残っていないのが現状です。
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【現代の陰陽師はなにもの?】

「あれ? 今も陰陽師を名乗る人は沢山いるんじゃ?」と思うかもしれませんが、冒頭で紹介したように基本的に陰陽師とは、「官職名」です。「警察官や消防士」などと同じであり、警察組織に属していなければ、警察官を名乗れないのと同じことで、「陰陽寮がない現代では名乗ることはできません」。

「陰陽師の子孫ならば、陰陽師でしょ?」という人もいますが、確かに江戸時代頃に衰退していた土御門家は、「陰陽師としての免状を発行」していました。
この免状をもっていると陰陽師を名乗れたわけですが、こちらは「一代限りのもの」であり、子孫に受け継がせることは出来ないものでした。
つまり、「江戸時代から生きている人以外は、陰陽師を名乗ることは不可能」なのです。

では、安倍晴明の子孫はどうなのかというと、前述したように直系の子孫は「安倍」ではなく、「土御門」という姓を名乗るようになっています。明治時代には華族だったのできちんとした家系図も残っており、現在でも直系子孫の方はいるようですが、土御門神道本庁は親戚筋の方が運営しています。

最終的な結論としては、陰陽師と現在で名乗っている人たちには、特になんら裏付けもない「自称」ということになります。
また、陰陽道自体、映画のような派手なものでなく、本来の術自体がほとんど散逸してしまっていることを考えると、陰陽師にスピリチュアルななにかを期待するというのは、あまりオススメできないということがわかります。

スピリチュアルな世界では、夢のような話や、時として奇跡が起こるようなこともありますが、だからといって、歴史などをないがしろにしたファンタジーを信じてしまうというのは、トラブルの元になりますので、くれぐれもご注意下さい。

The truth of Onmyoji.
Onmyoji was a civil servant.