美術品、縁起物、それともアクセサリー? 日本発祥の小さな工芸品が持つ力

そのモチーフは多岐にわたっており、「兎や牛、鶏といった十二支に登場するような動物」をはじめとして、「龍や狛犬、カッパといった想像上の生き物」、さらには「食品」や、「能面」、「中国の仙人や神様、僧侶」など、まさに面白そうなものならば、なんでも根付にしていたような感じがあります。

【3000万円で落札された工芸品とは?】

日本人は「手先が器用で、細かい製品を作るのが得意」といわれていますが、そんな日本人の技術が集まった工芸品であり、海外のオークションでは「3000万円で取引された」こともあるという、その品物の正体は「根付」

海外では「Netsuke」という言葉が通用するほど、美術品として有名になっている根付ですが、本来は「ポケットがない和服文化ならではの道具」でした。和服は収納部分が少ないために、小物を入れる巾着や、煙草入れ、薬の入った印籠などを帯に下げて携帯していました。そのときに、「帯から落ちないように引っかけるために考え出されたの道具」が根付だったわけです。

機能的に考えれば、単なる円形でも役には立ちますし、実際にそのようなタイプを使っている民族は他にもいるのですが、日本人は円形だけでは満足がいかずに、根付にさまざまな工夫を凝らし始めます。

 

【江戸時代が産んだ文化】

根付が登場したのは、「江戸時代」。日本の歴史上でも類を見ないほど、長い間平和が続いていた時代ということもあり、本来は小物を支えるという用途だけだった根付は、どんどんと独自の進化を遂げていきます。その性質上、大きさは3〜4センチ程度が限界であり、帯にしっかりとひっかかりながらも、布を傷つけないように、必要以上に尖った場所を作らない、といった「いくつもの制約があった」にも関わらず、根付は今日では美術品として認識されるほど「精緻な彫刻」が彫り込まれるようになったのです。

そのモチーフは多岐にわたっており、「兎や牛、鶏といった十二支に登場するような動物」をはじめとして、「龍や狛犬、カッパといった想像上の生き物」、さらには「食品」や、「能面」、「中国の仙人や神様、僧侶」など、まさに面白そうなものならば、なんでも根付にしていたような感じがあります。

 

【100年たって蘇った根付文化】

そんな根付も、明治時代の「文明開化によって和服を着る機会が少なくなる」とともに、どんどんと衰退していき、いつしか海外の方が知名度が高くなり、江戸時代の名品のほとんどが「国外に流出する」という事態になってしまいました。しかしながら、そんな根付が明治時代から「100年あまりたって復活しました」。

それは根付の現代版ともいえるものであり、みなさんご存じの「携帯電話につけるストラップ」としての復活でした。最近では、スマートフォンの普及率が高くなったために、以前ほどストラップをつけている人を見かけませんが、一昔前は携帯にストラップは基本ともいえるアイテムでした。

これは、まさに根付と同じものであり、制作方法やつける対象が変わっても、「小さい道具にたいして、愛情を注ぎ込む」という、日本人の精神は変わっていないといえるでしょう。

 

【根付はお守りでもあった】

美術品として有名になった根付ですが、ストラップに比べると、よりスピリチュアルな意味合いをもっていました。根付のモチーフとして「縁起物が好まれた」ことからも、単なる実用品以外の側面をもっていたことがわかるかと思いますが、伊勢の神宮では古くから根付をお土産として販売しており、古い時代の伊勢参りのお土産といえば根付だったといわれています。

つまり、根付は「お守り」でもあったわけです。

 

【根付にはユニコーンの角が使われていた!?】

また、その素材に関しても、興味深い事実があります。根付はさまざまな素材で作られていますが、そんな中でも、最も貴重な素材とされていたものがあります。その素材の名前は「ウニコール」。こちらは、「ユニコーンの角」という意味があります。

ユニコーンとは「伝説の動物」であり、日本語では「一角獣」などとも呼ばれる存在です。名前の由来にもなっている「角には特別な力」があり、「すべての毒を無効化する」といわれていました。中世ではその力はかなり信じられていたらしく、「医学書に記載されたり、貴族が購入していた」という記録も残っているのです。このように紹介してくると、まるで本当にユニコーンが実在していたように思うかもしれませんが、実際には、取引されていたのはユニコーンの角ではなく、「イッカクの角」でした。

イッカクとはクジラの一種なのですが、頭部に長い角がついていることから、このような名前がついています。体長の3分の2にも及ぶという長い角は、らせん状にねじれており、まさに伝説のユニコーンの角を思い起こさせるものですが、生物学的にいうと実はこちらは角ではなく、牙が長くなったものなのです。

江戸時代、鎖国状態だった日本ですが、このイッカクの角は輸入されており、「万病に効く薬とされて黄金よりも高い値段」で取引されていました。それぐらい貴重な素材を根付にすることで、常に薬を身につけていることができるだけでなく、いざというときには、根付を飲むことで病を癒すことができるとして、「最上級の根付の材料」とされたわけです。

実際のところ、イッカクの角には「毒を消す力も、万病を癒す力もありません」ので、あくまでもユニコーンという想像上の動物が元になった言い伝えではあるのですが、スピリチュアルな視点で考えると、「ユニコーンもエネルギーレベルでは存在している」といわれていますので、そんな「ユニコーンのエネルギーが宿った素材を使って作られた、神や龍を象った根付」というのは、まさに現代ではなかなか手に入れることの出来ない、とても「スピリチュアルなパワーに溢れたお守り」だったわけです。

さすがに現代では、なかなかイッカクの角を使った根付を見かけることは難しくなりましたが、ストラップなどを経て、美術品としての価値が見直されてきた根付は、各地で展示会などが行われるようになっていますし、伊勢の神宮を初めとして、お守りとして根付やストラップを販売している神社仏閣も多いですので、日本人らしさが詰まったお守りである根付を身につけてみませんか?

Netsuke of the Japanese sprit.
Netsuke and unicorn of relationship.