3、4世紀頃「セックスは史上最強のコミュニケーションツール」と説かれたインドの教典『カーマ・スートラ』……。
今回もカーマスートラの成り立ちを順にご紹介します。
秘教タントラは性愛エネルギーを昇華する手段
8世紀頃になると、インドの精神世界にタントラ思想が生まれます。タントラはサンスクリット語で縦糸を意味し、ヒンドゥー教では同様の教えとしてタントリズムがあります。タントリズムは人間を輪廻に縛り付ける元凶と考えられていた性エネルギー・シャクティをポジティブに捉え、それを完全に支配したときに人間はあらゆる能力を会得できると考えていました。そのためヨーガによって肉体を制御したり、セックスを悟りの業に変換させたのです。女神が信仰されだしたのはシャクティズムが高まり、性行為により神へ近づけると考えられたためでした。シヴァの妻パールヴァティの化身の一つ、カーリーは性火シャクティの神格化されたものと言われます。パールヴァティは可憐で優しい女神でもありますが、カーリーは悪魔や死を滅ぼす、畏怖すべき女神とされました。
性火クンダリニーの蛇は生命活動に直結し、覚醒を促す
昔から、生命エネルギーの根源である性エネルギーをいかに昇華させるのかが、聖人たちの課題でした。シャクティ信仰者は性火が宇宙を持続させる生命の力であり、エネルギーであると考えました。最高の実在を体験するためにカーマ・スートラに示されている性的実践を用いたともされています。カーマ・スートラ自体、トリヴァルガを得るため行者であるヴァーツヤーヤナがカーマにスポットを当てて書かれたもの……。つまり愛のある悟りの業を行いましょう、ということです。ただ性行為が絡むためタントラはしばしば秘教として扱いを受けています。ではセックスで悟りを得るとはどんなことなのか? タントラの目的はクンダリニーを目覚めさせること……。性火はクンダリニーとも呼ばれ古代ではあらゆる人のなかの背骨の一番下にとぐろを巻いて眠っている蛇といわれています。会陰部にあるムーラダーラ・チャクラから立ち昇る性火が蛇となり中央気道を駆け上がり、その熱でチャクラを溶かし覚醒させるとのこと。ひとたび目覚めれば、使い手の精神性いかんで魔にも神にも変容します。その奥義はだからこそ永く隠されてきたのでしょう……
シヴァの最初の妻・サティーは父とシヴァの口論の末、自殺してしまうが神々の手によって復活します。後にパールヴァティという名をはじめ、いくつもの名と違う人格を持ちます。優しい女神である反面、女性の陰惨で攻撃的な側面もみせます。お写真は戦いモードのときのドゥルガー女神。
性火を表すカーリーは残虐性の強い女神。生首をネックレスにし、死体を腰に巻きます。魔神と闘い勝利のダンスを踊ると世界は振動して壊れそうになりました。みかねたシヴァが横になり、夫を踏みつけたとき、カーリーは割れにかえってペロリと舌を出したという……そして世界は再び平穏に戻りました。
Special thanks:伊藤 武
在野のインド研究家として、周辺地域の歴史や文化に造詣が深い。2年にわたりインド全土、ネパール、スリランカ、タイを放浪。遺跡調査、神話、伝説、風習、武術、ヨーガなどの収集に努め、サンスクリット語の研究に取り組んでいる。
伊藤武先生のヨーガ教室:YAJ ~Yogini Association Japan~