一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.154 「君の名前で僕を呼んで」

彼と僕のひと夏の切ない恋の物語
涙があふれる長廻しラストショット!

昨夜、「おっさんずラブ」というテレビドラマを見て大爆笑してしまった。

ドラマで笑うなんて久々のことで自分でも驚いた。
中年の部長(おっさん)に好かれるサラリーマン(男)の話で、同性愛を扱ったコメディテイストのドラマだ。
私はBLも好きだし、同性愛ものも好きだ。
否定もしないのだが、しかし……実際にそんなことってあるんだろうか? と思ってる節がある。
また、美少年や美しい同性愛は良いのだが、リアルになるとう~ん……、となってしまう。実際にあるんだろう、とは分かっているのだけど、なんかそこで思考停止してしまうみたいだ。

「おっさんずラブ」はコワモテの吉田鋼太郎が「ばかぁーっ!」と叫んで田中圭の腰に抱きつくなんてギャップが「ギャッハッハッ!」と大笑いで、そんなことあるわけないじゃんってことが展開されて、まんま漫画なのである。

で、さて、本作だ。
本作も同性愛の物語だ。
それも、美しい。

美しい青春の一瞬を切り取ったような切ない恋の物語なのだ。
私はラストシーンではしとどに涙をあふれさせた。
「せ、つ、な、あ~」の言葉しかなかった長廻しのラストショット。
はあ~っとため息をついて私は本屋に走った。原作本(英語)を買うためだ。
しかし、本はなかった……。
日本語版が出てから買おう。

 

全然惹かれてるのが分からない二人
濃密な時間へのもどかしい恋のステップ

お話を少し。
1983年の北イタリアの避暑地。
17歳のエリオは毎夏、そこで裕福な両親と共に過ごす。
大学教授の父親の助手として今年やってきたのは、24歳の大学院生オリヴァー。
長身、ハンサムなオリヴァーに、エリオは惹かれていく。
それはオリヴァーも同じで、ふたりはある日、自転車で出かけそこで……。

エリオが今風な男の子で、なんか、最初ちっともロマンチックじゃない。
しかも、女の子とも寝ちゃったりしてオリヴァーとも口喧嘩したりと、全然惹かれてるようじゃないのだ。
オリヴァーもさっぱりそれらしい素振りは見せず、女の子をナンパしたり?。
また、別荘での父親とオリヴァーの研究の作業とか、別荘の使用人との会話とか、彼らの夏の日々をものすごく淡々と繰り返し描いていて、少々退屈気味。
が、突然抱き合ってキスするのである。
えっ、どこで好きになってたん?? と驚くがそこからは急ピッチでふたりの仲は展開する。
美少年、美青年のひと夏の恋。
しかし、夏が終わればオリヴァーはアメリカに帰らなくてはならない……。

二人の仲が濃密になると、今まで退屈だった別荘の中や庭の様子や、街や田舎の草原の様子までもが、ぐっと匂い立つように意味深に密やかになる。
ハンサムな俳優たちの肌がしっとり汗で濡れる。
うう~ん。日本みたいなねっとり感はないので、どこまでもガシッと抱擁するようなさらり感が白人テイストで、さっぱり興奮せず。
それはそれでいいけど。

 

エリオの父親の言葉に大感動!
人を愛することができる素晴らしさ!

で、私が感動したのは、エリオの父親だ。
息子が男に恋をしてると知っても全然動ぜず。
傷ついた息子に心のままに恋することは素晴らしい。
私は若い時にできなかった。
だから、後悔するな。
と切々と説くのである。
なんて、素晴らしい稀有な父親! このシーンは知らず知らずの内に胸が熱くなった。
相手が誰であろうと、人を愛することができるということは自慢すべき息子なのである。
そして、若い時のそんな時間は宝石のように貴重で、その後の彼の人生を彩ってくれるものなのだ。
そして、涙のラストショット……。

観終わってしばらく残ったのは、あの別荘のけだるく退屈な描写。
そして、切なさ。
エリオもオリヴァーもこの恋は引きずるんだろうなぁ。
(原作ではしっかり引きずっているらしいが)。

「おっさんずラブ」とは対極の同性愛ものだけど、男同士の恋愛って、笑えるか泣けるか、きわどいものになるのは、やはり禁断色が強いからだろう。
でも、男同士の恋愛もいろんなものがあるんだから、男と女の恋愛ばかりじゃなくてそっちもいろいろ作って欲しいものである。
そしたら私の思考停止部分も溶解するかもしれない。

日本版原作はBLで有名な出版社からでるらしい。
余韻が甘い、佳作である。

監督 ルカ・グァダニーノ
原作 アンドレ・アシマン
脚色 ジェームズ・アイヴォリー
出演 アーミー・ハマー ティモシー・シャラメ マイケル・スタールバーグ アミラ・カサール
エステール・ガレル ヴィクトワール・デュボワ ヴァンダ・カプリオーロ

※132分

※4/27㈮より、大阪ステーションシティシネマ/TOHOシネマズなんばほか全国ロードショー ©Frenesy, La Cinefacture

 

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