一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.131 「光をくれた人」

胸苦しいドラマが展開されるも、美しい空や海や灯台、孤島の様子が気持ちを和らげる。 が、美しいが寂しい……。

灯台守の夫婦に与えられた試練
愛をとり、失ったものは……。

絶海の孤島で灯台守として暮らす。
本土に帰れるのは三年に一度。
どんな暮らしだろう。

女には到底無理だと思われる。

でも、愛する人と一緒なら、そんな過酷な環境もまた喜びになる。
しかし、愛する妻が心を病めば、それは地獄になる。
人は地獄から抜け出すために、なんでもしてしまう。
それが人間だから。

孤島の灯台守として赴任した若夫婦。
ふたりは深く愛し合い妻はほどなく妊娠する。
しかし、ある嵐の夜流産してしまう。
悲しみを乗り越え再び妊娠するが、またも流産。
失意のあまり呆然自失、心が折れそうな妻の姿に夫は見守ることしかできない。

そんなふたりの元へ一隻のボートが流れ着く。
乗っていたのはすでに息絶えた男と女の赤ん坊。
すぐに報告しようとする夫を止め、妻は自分たちの子として赤ん坊を育てることを懇願する。
押し切られた夫はしばし三人で穏やかな日々を過ごすのだが、本土に帰ったある日、娘の母親の存在を知ることになる……。

 

何かを得ようと思ったら、何かを
捨てなくてはならないのが、人生

悲劇だ。
あんなに愛し合っていた夫婦なのに、中盤に妻のとった行動は人間の本性を垣間見させる。
女にとって夫より子どもの方が大切なのはしかたないのだろうが、妻は夫の裏切りが許せない。
また、夫は良心の呵責に耐えられずとった行動、そして何があっても妻を守るという強固な意志は歯がゆいが、感動的である。

ラストの妻の選択にはほっとさせられたが、それによって失うものがあるのはしかたない。
なにかを得ようと思ったらなにかを捨てなくてはならないのが人生のルールだから。
四歳で突然母親から引き離されて、産みの母に引き取られた娘。
彼女の人生も狂ったのである。
もちろん、実の娘を四年ぶりにわが胸に抱き引き取った実母も試練にさらされる。
皆の人生が波乱を迎える。

 

日々自らの人間としての業を忘れず
謙虚に生きていけたら……いいね!

胸苦しいドラマが展開されるも、美しい空や海や灯台、孤島の様子が気持ちを和らげる。
が、美しいが寂しい……。

もし、私だったらと考える。
たぶん、私も二度も流産してこの孤島暮らしだと、赤ん坊を手放せないと思う。

犯罪と知りつつ自分たちの子として育てるかも? と思う。
しかし……。

しかし、そうはしないのでは? 今の私ならしないと思う。
でも、分からない……。

人間、腹が減ったら盗むのである。
辛かったら、抜け出すためになんでもするのである。

常々、私もそういう生き物である、と自戒しながら謙虚に生きていくことを忘れないことだ。
そんなことを思わせられた深い人間性を描いた佳作である。

監督・脚色 デレク・シアンフランス
原作 M・L・ステッドマン
出演 マイケル・ファスベンダー アリシア・ヴィキャンデル
レイチェル・ワイズ ブライアン・ブラウン ジャック・トンプソン
133分

5月26日(金)、全国ロードショー!
大阪ステーションシティシネマ/TOHOシネマズなんば/京都シネマ/109シネマズHAT神戸/TOHOシネマズ西宮OS、他
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