一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.127 「わたしは、ダニエル・ブレイク」

幼い娘でも大きな大人を助けようとする。 誰もかれも隣人たちはダニエルに親切だ。 人々の心の結びつきや優しさにほっとさせられ、暖かい気持ちにさせられる。

人間として生きる権利と他人への優しさ
二つを描いて心打つ佳作のドラマ!

電話での問い合わせに、最近ではどこも録音の声が最初に対応し、何分も待たされることが多い。

こういう風になったのって、何時ごろからだっけ? 20年くらい前か? 人間が出てこないことにイライラする。
効率化合理化人件費削減のためにはしかたないことなんだろう。
やっと出てきた人間も言うことは機械みたいなことばかり。
ほんっとにがっくり来ることが少なくない。

本作の主人公ダニエル・ブレイクが、電話をかけては長時間待たされ、理不尽なことを繰り返し言われる様を見ながら「どこも同じなんだなぁ」と感慨深いものがあった。

要するに、世界的な不寛容は増すばかりなのだ。
そんな世界の中で生きる私たちに必要なものは? 隣人の暖かさであり、優しさしかないのだ。
と、この映画は教えてくれる。

ダニエル・ブレイク59歳。
職業、大工。
妻を亡くしてからも実直に一人の日々を生きてきた頑固な男だ。

しかし、心臓の病で医師から仕事を止められる。
国の援助を受けようとするが、制度が厳しく簡単に受給することができない。
ダニエルは何度も電話して、職安に足を運ぶがらちがあかない。
ある日職安で抗議しているシングルマザーのケイティと子どもたちと知り合う。
ダニエルは自分も苦しいのにケイティたちを手助けするようになるのだが……。

 

リアルな人生はこうかもしれない
でも、そうじゃないかもしれないのだ!

イギリスの労働者階級の失業率や貧困は以前からあまり改善されていないようだ。
今は日本も同じような状況かもしれない。
なんとか援助を受けようとするダニエルは役所の言うとおりに履歴書執筆セミナーを受講したり、就職活動したり、出来ないネットからの申し込みをしたりと奮闘する。
映画はその様子をリアルに丁寧に描き、ダニエルへの共感はいや増す。

何をやっても受給申請は受けられず、悲惨な状況になるのだが、観ていて私は「もういっそ働けばいいのに」と思った。
医者から止められようが、病気だろうが、働けばいいのに。
それで死んでも本望では……?
医者の言うことは絶対ではないし、寿命もわからないし。
と正直強く思ったのは確かだ。

しかし、本作はシビアで皮肉なラストを用意してくる。
たぶん、リアルな人生はこのラストのようなもんだろう。
でも、こんなラストじゃないかもしれない。
という気持ちを残しておくと、人生楽しいとも思う。
決め付けないことだ。

 

隣人に優しく寛容でありたい
それが結局私たちを救うのだから

私が本作で一番ハッとさせられて心が動いたのが、ダニエルがもうどん詰まりになって家に引きこもってしまった時に、ケイティの幼い娘がダニエルを訪ねてきて、ドアを開けようとしない彼に「助けてくれたよね? 今度は私が助けるから」と言って出てきたダニエルに抱くつくシーンだ。
幼い娘でも大きな大人を助けようとする。
誰もかれも隣人たちはダニエルに親切だ。
人々の心の結びつきや優しさにほっとさせられ、暖かい気持ちにさせられる。
同時に果たして日本はどうだろう? 私はどうだろう? と考えさせられた。
隣人に優しくありたいと思う。私たちは深い所ではひとつにつながっているのだから。お互い様なのだから。
優しくすることで結局私たちは救われるのだから。

カンヌ映画祭でパルムドール(最高賞)を獲った佳作は、厳しい現実と、それに立ち向かう人間を描いてどこまでももどかしいが、面白い!

 

監督 ケン・ローチ
脚本 ポール・ラヴァティ
出演 デイヴ・ジョーンズ ヘイリー・スクワイアーズ ディラン・フィ
リップ・マキアナン ブリアナ・シャン ケイト・ラッター
100分

※2017年3月18日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
© Sixteen Tyne Limited, Why Not Produc@ons, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,Bri@sh Broadcas@ng Corpora@on, France 2 Cinéma and The Bri@sh Film Ins@tute 2016

 

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