一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.112 「君の名は。」

ラストの何本もの電車の映像と、電車の中と電車の窓からの景色と空と、ガタンガタンという音。そしてそこへかぶる憂鬱な少年のモノローグ。これこそ、新海誠の真骨頂では? この憂鬱さ。大好きです。

新海誠の最新作は、凝った細部の
胸キュンエンターテインメント作!!

新海誠監督には熱烈なファンが多い。教えている専門学校にも何人も新海信者がいる。私は名前だけしか知らなくて、学生に教えられて4年ほど前に彼の全作品を観た。そうしたら「言の葉の庭」が公開された。ノックアウト。前の4作は正直、? というのもあったけど、「言の葉の庭」は打ちのめされた。す・ば・ら・し・い!! この人す・ご・お・お・い!!! だ・い・す・き!!  である。

だから今作も楽しみにしていた。
で、観た。すごいエンターテインメント作品だった。

「君の名は。」第二段

新海監督の怖いほどの繊細さはあるものの、誰しも楽しめる贅沢で凝ったアニメ作の仕上がり。実は、あれっ? と最初の展開でとまどった。しかし、相変わらず細部は緻密で、物語に引き込まれた。そして、エンタメ作にはなっているが、底辺にある「神秘さ」や「必死さ」や「寂寞感」は健在だと思った。
少々キャラクターのデザインが子どもっぽいのは気になったが……。
ラストはキュンキュンさせられるし、こみ上げるものがあった。これでメジャーになるのはファンとしては複雑な気分もあるが、新海監督の作品を観られるだけでも幸せというものである。

サブ㈰

 

田舎町に暮らす少女と都会の少年
なかなか出会えない「出会いの物語」

さて、お話はあんまり話せない。
一言で言うと「出会い」の物語。ボーイ・ミーツ・ガールなんだけど、離れた場所で暮らす少年と少女は夢の中? で出会う。いや、夢の中と思っていたら、現実にふたりは入れ替わっていた……!? 入れ替わってそれぞれの環境で暮らすものの、彼らは実際には会ったことがないのだ。

少女が暮らす田舎の町がいい。少女の住む大きな古い日本家屋もいい。少女が古い神社の跡取りで巫女だというのもいい。神社に伝わる口噛み酒という風習もいい。素晴らしいディテールの積み重ね。それらは全て伏線なのだ。私たちは少女にだんだん夢中になっていく。しかし、実はこの少女……という後半で意表を衝かれる。ちょっとぞっとさせられる。
そこからのクライマックスの展開はドキドキハラハラだ。
新海作品お得意の、時間が経過してのラストはやはり、ロマンチック。

サブ㈫

 

新海作品の魅力は、映画を観ながら
自身の内面の底を覗けること

彗星の映像が美しくて、壮大。でも、私が一番印象に残ったのは、ラストの何本もの電車の映像と、電車の中と電車の窓からの景色と空と、ガタンガタンという音。そしてそこへかぶる憂鬱な少年のモノローグ。これこそ、新海誠の真骨頂では? この憂鬱さ。大好きです。

「言の葉の庭」のDVDのインタビューで新海監督が言っていたことで忘れられないことがある。
「人って電車の窓から景色をボーッと見ているようで、実は景色なんて見てなくて、自身の内面の底の方を見ているものなんです」。

この言葉みたいに、新海作品は自分の内面の底の方を映画を観ながら見せられるような気がする。それが彼の作品の一番の魅力なのだろう。本作はそれが薄いが、「逢魔が時」のくだりで、私は少し、自身の内面を覗くことができた。

しかし、日本のアニメは今更ながら、凄いよね。

サブ㈮

※8月26日(金)~全国東宝系劇場にてロードショー
監督・脚本:新海誠
作画監督:安藤雅司
キャラクターデザイン:田中将賀
音楽:RADWIMPS
声の出演:神木隆之介 上白石萌音 長澤まさみ 市原悦子 ほか
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給:東宝

©2016「君の名は。」製作委員会

サブ㈭

 

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