霊長類最強女子が破れた理由はジンクス? それともプレッシャー? 吉田沙保里選手はなぜ負けたのか

超人的な力をもっているからこそ、積み重なったプレッシャーがわずかにその歯車を崩してしまったのでしょう。

【過去最高のメダルを獲得した日本選手団】

今回のリオオリンピックは、過去最高となる「41個のメダルを日本選手団が獲得する」という「大きな成果」を残したものとなりました。4年後に開催される東京オリンピックを前にして、まさに素晴らしい活躍を選手達は見せてくれたのです。そんな中で「銀メダルを獲得したものの、その敗北に日本中が驚いた選手」がいます。

その選手とは「吉田沙保里選手」。3歳からレスリングをはじめた彼女は、1998年の優勝以来、多くの大会で優勝を重ね、2012年9月にひらかれた世界選手権において、「男女を通して史上最多となる、世界選手権10連覇および、世界大会13大会連続優勝を達成」しました。この「13大会連続世界一」という偉業はギネスにも認定され、日本政府より「国民栄誉賞を授与された」という、まさに「レスリング界の英雄」です。

 

【レスリング界の英雄 霊長類最強女子の超人的な記録】

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世界大会の連覇はそれからも続き、「16連覇」を成し遂げ、今回のリオオリンピックへ挑むことになりました。吉田選手は、霊長類最強の男と呼ばれた「アレクサンドル・アレクサンドロヴィチ・カレリン」と対比されることが多くあります。彼はレスリング最重量級で「13年間無敗」、そして吉田選手が更新するまでは、世界選手権9連覇という記録をもっていた人物です。彼の記録を書き換えたことで、吉田選手は「霊長類最強女子」と呼ばれたりしますが、そんなカレリンは、三大会連続でオリンピックの金メダルを獲得しながらも、4度目のオリンピックで惜しくも銀メダルとなってしまいました。奇しくも、今回の「吉田選手の結果と重なり」ます。

今までの超人的な記録から、今回の「オリンピックでの金メダルも確実視されていた」吉田選手が負けた理由とはいったいなんだったのでしょうか? さまざまな理由が取りざたされていますが、かつてないほどの「精神的な重圧により、厳しい状況にあったのが主な原因」だと考えられています。

 

【ジンクスは覆したものの……】

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日本のオリンピック選手団には、ちょっとした「ジンクス」があります。それは「主将を務めた人物はメダルを獲得できない」というもの。これは単なる縁起担ぎではなく、主将という立場によるプレッシャーまた、大会前に様々な行事に出席する必要があることなどから、試合だけにすべてを集中出来ないなどの多くのデメリットが存在しているのです。そんな中で銀メダルを獲得しただけでも、驚異的ですが、今回のオリンピックにいたるまでは、他にも「多くの障害」が存在していました。

東京オリンピックの競技からレスリングが除外される可能性が出た時に、吉田選手はその知名度をいかして、「積極的にロビー活動」を行いました。その結果、ギリギリのところで、東京オリンピックの競技としてレスリングが残りました。スポーツ選手が慣れないロビー活動をしたことの精神的疲労はいかほどのものだったでしょう。その半年後に吉田選手をレスリングの道へと誘い常に支えてくれた父である「吉田栄勝」さんが「急逝」してしまいます。

霊長類最強女子と呼ばれていても、ひとりの人間である吉田選手。偉大な記録を積み重ねるほどに、そのプレッシャーは増えていったことでしょう……。それを支えてくれていた父の不在によって、オリンピック前に8ヶ月も試合をしないまま、本番に挑むことになりました。

 

【英雄を目指した「心」と英雄だからこそ崩れた「心」】

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一方で、吉田選手を倒した「ヘレン・ルイーズ・マルーリス」選手は、今回がオリンピック初出場となるものの、「12歳のときに見た吉田選手に憧れて、英雄を倒すためにひたすら努力してきた」という逸話をもっています。試合記録はもちろん、インタビューの動画を英語に翻訳して、その人柄を知った上で、強さと弱点を分析するというほどの努力を積み重ねました。その結果が、今回の勝利であり「人生でずっと夢見てきた」というほどの栄冠となったのです。どれだけ彼女が吉田選手を尊敬していたのかは、試合後に「勝者と敗者の双方が号泣している」という珍しいシーンからもわかることでしょう。

尊敬する英雄を倒すために、ひたずらそれだけを考えてきた挑戦者。それにたいして、英雄であるが故に積み重なっていくプレッシャーに耐えて戦った王者。前述のような多くのプレッシャーに加えて、同じレスリングの伊調馨選手が先に4連覇を達成するという、通常の人ならば、メダルをとれなくてもおかしくないような「過酷な状況」でありながらも、決勝までは相手に1ポイントも与えないという偉業をなしとげた吉田選手。

超人的な力をもっているからこそ、積み重なったプレッシャーがわずかにその歯車を崩してしまったのでしょう。今回の敗北もあり、吉田選手の引退もささやかれていますが、16年間にわたって、多くのレスリング選手に影響を与えてきた英雄であるからこそ、ゆっくりと休養をした上で、プレッシャーのない自由な状態で金メダルを獲得した上で、引退の花道を飾って欲しいと願ってしまいます。

The reason for wrestling hero is lost.
Saori Yoshida mental pressure that hit the player.

 

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