【世界各地に存在する女神】
世界各地に様々な女神様がいます。もっとも原初の信仰は子供、すなわち「生命を生み出すことのできる女性」を信仰する「大地母神」信仰だったという説もあるぐらいであり、多くの神話に「女神が重要な役割」をもって登場しています。日本神話の場合は、皇室の祖先神である「天照大神」が女神ですし、天照大神が天岩戸に籠もったときに、そこから顔を出させるために活躍したのも、女神である「天宇受売命」でした。
日本以外で有名な女神といえば、ギリシャ神話の「アテネ」は「勝利の女神」として有名ですし、同じく「アフロディーテ」は「美の女神」として、さまざまな芸術の題材となっています。他にも北欧神話で「人間の運命をつむぐ」、三姉妹である「ノルン」や、厳密には女神とはいえないですが「聖母マリア」なども、カテゴリー的には近いものがあるでしょう。
【苦難をたっぷり背負った女神】
これらの有名な女神はそれぞれ、「華やかなエピソード」をもっていますが、まるで昭和のドラマであるかのように、さまざまな「苦難を背負った女神」も日本には存在しています。その女神とは「橋姫」。この女神は基本的に「橋を守護する役目をもった神様」であるとされています。
橋というのは、土地と土地を繋ぐものである一方で、「あちら」と「こちら」を隔てる「境界」でもありました。「あの世とこの世の間に川がある」というのは、日本の三途の川だけでなく、世界的に古くから共通するイメージですが、そのような場所だからこそ、「外敵や悪い物が入ってこないように守る」ものが必要だったわけです。
【鬼へと変ずる女神】
つまり、橋姫は重要な役割を持っているわけですが、その性質は一般的に「嫉妬深い」とされています。女神が嫉妬深いというケースは比較的よくあるのですが、橋姫はその嫉妬深さゆえに、神であるはずなのに「鬼」へと変じることもあるほど、「嫉妬心が強い」とされています。
なぜ、神様であるにもかかわらず、それだけ感情的な存在とされたのかには、諸説あります。
前述したように橋とは、土地と土地を結ぶものであったので、橋がかけられることによって、土地、すなわち「領土争い」が行われたことから、その争いの醜さが橋姫に投影されたというものや、橋姫とは本来は古語で「愛し(はし)」であり、「愛し姫」と呼ばれており、これはすなわち「愛人」のことでした、本妻の地位にない愛人が嫉妬深いというのは、比較的わかりやすい説といえるでしょう。
【鬼として有名になった宇治の橋姫】
こういった性格付けがされたことで、橋姫は女神であるはずにも関わらず、時として鬼として表現されます。もっとも有名なのは「宇治の橋姫」です。
こちらは、京都の宇治川にかかる橋を守護する橋姫なのですが、こちらは嫉妬のあまり「呪いを行い鬼となった女」だといわれているのです。様々な物語の題材にとりあげられ、当時の英雄である渡辺綱に腕を切られたり、安倍晴明によって封じられたりという話が作られました。