神と一体化するためのダンス

「イスラム教神秘主義」と呼ばれる【スーフィズム】では、独特の踊りによって、神と一体化するという技法があります。神との一体感を求めて修行する人々は「スーフィー」と呼ばれ、修行方法としての「セマー」と呼ばれるのが特徴的な「スーフィーダンス」。

【踊りによって神を呼び込む】

古代から儀式には、「踊り」がつきものでした。それによって「意識を変容させて」神からのメッセージを受け取ったり、時には「神をその身体に降臨させたりしていた」のです。

現代でも、神社の神事で巫女舞などが奉納されますが、それはそういった古来の儀式の名残といえるでしょう。

現代では、このような「踊りを通して神秘体験を得る」という技法は減ってきていますが、完全に無くなったわけではありません。「イスラム教神秘主義」と呼ばれる「スーフィズム」では、独特の踊りによって、神と一体化するという技法があります。

 

【神との一体化を求めるスーフィー】

イスラム教では、音楽や踊りといったものを公には推奨していないのですが、戒律に縛られてしまったイスラム教の状況を打破し、より「スピリチュアルな要素を追究」しようとして生まれたものが「スーフィズム」と呼ばれています。

今から「1300年ほど前」に誕生したといわれていますが、大元はイスラム教ではなく、元々あった神との一体化を求める信仰がイスラム教の教えと融合したのではないかという説もあります。

神との一体感を求めて修行する人々を「スーフィー」と呼んだことが、スーフィズムの由来なのですが、彼らがなぜこのような名称で呼ばれたのかには諸説あります。

もっとも有力視されているものとしては、初期段階の修行者が粗末な「羊毛の衣服を身につけていた」ことから、「羊毛」を意味する「スーフ」に由来するというものがありますが、他にも「清浄さ」を意味する「サファー」に由来するというもの、ギリシャ語で「叡智」を意味する「ソフォス」に由来するなどともいわれています。

 

【ひたすら回転するスーフィーダンス】

そんなスーフィーの特徴的な修行方法が「セマー」と呼ばれる「スーフィーダンス」。日本語に直すと「旋回舞踊」などとも呼ばれています。具体的にどのようにするかというと、くるくると一心不乱にまわるというものです。

ひたすらまわるだけというと、簡単なイメージがあるかもしれませんが、実際には最低でも「数十分」は旋回し、「セマーゼン」と呼ばれる公式に認定された踊り手になるためには、少なくとも「数時間は旋回を続ける必要がある」といわれています。

子供の頃、ぐるぐるとまわるという遊びをやったことがあるという方は多いと思いますが、数十分どころか、数分まわっただけでも目が回って、まともに立っている事もできなくなったと思います。それを数時間続けるわけですから、その時の体験は実際にやってみないと理解できないものでしょう。

 

【強烈な体験を持たす回転】

ぐるぐるとまわっていることで、「意識が変容し、それによって高次のエクスタシーを感じたり、身体の細胞ひとつひとつが神の光をはなっているような強烈な体験」を受ける人もいるとされています。

これだけの強烈な体験が得られるわけですが、最近ではスーフィズムを禁止している国も多くあり、その結果、アンダーグラウンドに潜ったこともあって、スーフィー本来の「求道精神を追究した思想は薄れてきて」おり、単なる「神秘体験だけを目的としたもの」や、観光目的で単に「踊りを見せるだけのもの」も増えてきているのだそうです。

シンプルな踊りでありながらも、意識変容をもたらし、神と一体化することのできるセマー。1000年以上続いてきた、この不思議な踊りが、今後も失われずに続いていくことを祈りたいところです。

 

Dance to integrate with God.
To transform consciousness do the rotation.