人気アプリ作家・西麻布よしこが挑む! 平成二十五年訳 『源氏物語』紫式部 <十六>

冠をおつけになり、御休所にてご装束をお召し替えされて、下がって拝謁されるご様子に、皆、涙を落としていました。  帝は、誰にもまして悲しみを隠せないご様子で、気の紛れるときもあった昔のことを、思い出しては悲しみが押し寄せていらっしゃるようでした。

第六段 源氏元服(十二歳)

 帝は、この美しい源氏の君の童姿を変えたくないと強くお思いでしたが、源氏の君は十二歳になり、元服されることとなりました。
儀をご自身で取り計らい、さらにはできる限りの品物や行事を添えさせ給いました。
昨年の東宮の元服式は、中央の紫宸殿で盛大に執り行われ、世の評判となりましたが、源氏の君のそれは、紫宸殿でなくとも、東宮にも引けを取らない立派なものでした。
各饗宴では、内蔵寮や穀倉院などが月並みな仕事でこの行事をおろそかにすることがないよう、帝の格別の命令により、贅沢を極めた行事に仕上がったのです。

お住まいの清涼殿ひさしの間に椅子が置かれ、元服される源氏の君と、加冠される大臣のお席は、帝の御前にありました。
申の時に源氏の君が参り給いました。
儀式のため角髪に結われ、童顔のかわいらしさが様変わりする様子は、たいへん惜しいことです。
大蔵卿が、光源氏の髪を整える役目でした。
清らかな御髪を削ぐたび、皆、心苦しい様子でした。
帝は、「もしも亡き母御息所が見ているのなら」と、桐壺をお思い出しになり、堪え難い思いを変えていらっしゃるご様子でした。

冠をおつけになり、御休所にてご装束をお召し替えされて、下がって拝謁されるご様子に、皆、涙を落としていました。
帝は、誰にもまして悲しみを隠せないご様子で、気の紛れるときもあった昔のことを、思い出しては悲しみが押し寄せていらっしゃるようでした。

しかし、このような幼い年に髪上げをすると、以前より劣ってしまうのではないかと心配されていましたが、源氏の君にかんしては、そうではありません。
そのような皆の心配をよそに、意外にもそのお姿には、優れた美貌が加わっていました。

 

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