一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.59 「うまれる ずっと、いっしょ。」

尊く美しい三組の家族の生と死のドラマに
生きることの「楽しさ」を知る

泣けました・・・。
生まれること、この世での両親始め、たくさんの人との関わりの中で生きること、そして、親しんだ人々へと別れを告げて死んでいくこと。人の一生は短い。だけど、この短い一生の中で人は様々なドラマを、苦悩と喜びを持って体験している。
それってすごいことだ。そんなことに改めて気づかせてくれる秀作ドキュメンタリーである。
ここで描かれる人たちはなんて尊く美しいのかと、そのことにも感動させられた。涙が溢れる。そして、この人たちはそのまま、私たちの姿でもある。私はこの映画に、自分の姿を見た。
生きるってほんとうに、楽しい。哀しいことも楽しい。苦しいことも楽しい。生きるに値する、驚きに満ちた時間の積み重ねである。そうこの映画は確信させてくれる。

2010年の第一作「うまれる」は40万人以上の観客動員を果たし大ヒットした。それから4年。今作では三つの家族が登場する。
血のつながりがない父と息子。父親は自分のことを本当の父親だと信じる息子に「真実を語らねば」と苦悩する。父親を大好きな息子の様子、そんな息子を溺愛する父親の様子がただただ見てるだけで心地良い。絶対の愛情と信頼が画面を通してひしひし伝わってくる。それがこんなにも嬉しく、笑顔にさせられるなんて。このふたりの間にはただならぬ前世のつながりがあったのだな、と思わせられる。

そして最愛の妻を失った夫。妻の最後の姿。夫の周りをはばからないほどの落胆、号泣ぶり。それは1年たっても同じ。少しも夫の涙は枯れない。男泣きにこちらも何度ももらい泣きしてしまった。しかし、1年後から夫は少しずつ立ち直り始める。趣味のバイクのツーリングをナナハンを買って再び始める。料理の腕も上達する。良かった! と本当にこちらもホッとさせられる。

障害を持って生まれてきた天使の虎ちゃん
虎ちゃんの危篤に号泣! がんばれっ虎!

それから障害を持つ子どもを育てる夫婦。彼らは「うまれる」に続いての登場だ。
やはり、この家族のエピソードが一番感動させられた。もうだだ泣きである。
「18トリソミー」という染色体の障害持って生まれてきた虎ちゃん。1歳まで生きられる確率が10%。しかし、虎ちゃんは2歳まで元気に生きた。そしてある日突然危篤状態になる。
カメラの前では決して涙を見せることなく、いつも満面の笑顔で気丈だった母親は、これまた笑顔で「虎は闘ってるから、私たちも虎を支えなくちゃ・・・」と言いながら初めてカメラの前で涙をこぼす。「あれ、ごめんなさい・・・」と自分の涙にとまどう母親の姿にこちらはもう号泣するしかない。天使の笑顔を持ち、みんなに愛されていた虎ちゃん。
父親は「障害児を育てるのがこんなに楽しいなんて・・・」と心情を吐露する。そうだろう。だって虎ちゃんは天使なんだから。虎ちゃんといるだけでみんなが笑顔になる。みんなが虎ちゃんの笑顔を見たいと集まってくる。
虎ちゃんに訪れた奇跡にまたまた号泣。もう顔がボロボロ状態でした。

家族で傷ついている人たちに少しだけの救い
でも、それだけで十分なのだから

地味な作品ではあるが、どうぞ、こういう作品をこそ、多くの人に観て欲しいと切に思う。たぶん、本作を観て、とても気持ちが楽になったり、優しくなったり、元気がでたりする人はたくさんいると思う。家族のことで傷ついたり、悩んでいる人はきっと少しだけ救われるのではないだろうか? 少しだけ、だけど。映画はそんなものだから。立ち直るのはやはり、自力で。映画はそのきっかけでしかないと思うから。でも、きっかけは必ず必要なのだ。

■11月22日(土)~全国順次ロードショー
■11月29日(土)~関西ロードショー

■企画・監督・撮影 豪田トモ
■ナレーション 樹木希林
■122分
©2014 Indigo Films