海猫屋の「不思議なことなどなにもない!」まずはお友達からお願いします!PART.1

もともと私は友達づくりというものに活発でも前向きでもありませんでした。一人で絵を描くことや本を読むことの方を好んでいましたし、空想の世界にどっぷり浸かって架空の物語を創るのが大好きな子供だったのです。

しかしそれを「良し」としなかったのは周囲の大人たちでした。特に母は私の『独りで楽しむ空想ごっこ』を「悪いこと」「いけないこと」だと強く諭したものです。
この母の「良し」としなかった思いに拍車をかけたのが転校です。私は父の仕事の関係で小学校を4回転校しています。

転校生はいじめられる……。

これは母の強い思い込みでした。転校すると必ず、母はクラスの女の子全員を我が家に招き、手作りの食事でもてなし「この子と仲良くしてあげてね。」と訴えていたものです。私の本心を考えることもなく……。
私は決して人間不信でもなければ人見知りが激しいわけでもありません。クラスの子たちと遊ぶことも楽しかったのですが、それ以上に一人で絵を描いたり本を読んでいる方が楽しかっただけです。
また半分が空想の世界で生きているような子供だったので、周囲と歩調を合わせるのが苦手……というよりも自分のペースで飄々としている、どちらかというと子供らしくない子供だったと思います。

転校生だから……ということはさておきも、周囲から浮いた子をいじめの標的にしてしまうのは子供ゆえの心理でしょう。ましてや母親はあんなにも皆に親身に振る舞っているにも関わらず、当の本人はまったく歩み寄る姿勢を見せない……それはすぐに「仲間はずれ」という形で執行されました。
しかしマイペースな私はすぐに自分が仲間はずれにされたことに気づくことができません。それが余計に周囲を苛立たせ、小さな嫌がらせは露骨ないじめへとエスカレートしていきます。こうなってくるとさすがに7歳の子供の心理には過酷です。
泣きながら帰宅し事の次第を母に話すと、母は血相を変えて担任に連絡し、仲間はずれにした子供の親にもすぐに連絡するのでした。
ここでの母の行動は決して激昂するものではありません。申し訳なかった、頼むからこの子と仲良くしてやって欲しい……謝罪する母を見ながら私は子供心に「いじめられたのは私が悪いからだ」と自分を責めたものです。

みんなと仲良くしなければ……母のようにクラス全員に気を配らねば……
友達を作らないと母を哀しませる……
仲良くしないと……友達をたくさん作らないと……

人の心理への過剰な反応。常にクラス全員を詳細に観察した結果、転校生は一学期を過ぎる頃にはクラス委員長に抜擢されるほど、クラス全体を掌握しているのでした。

「オマエさん、それって……逆に怖くね?ちっともガキっぽくないんだけど?」
「そう思うでしょ?ラファエル。ただ自分では掌握するつもりなんてサラサラないの。母親に迷惑をかけまいと必死になってたら、自然とそうなっちゃう幼少期だったのよ。」
「んで?クラスのトップに君臨したあとは?」
「それがさ、大体トップに立ったところで転校になっちゃう訳。多分クラスメイトの多くはホッとしてたんじゃないかな、心理戦からの掌握だからね。私自身は意識してなかったけど、独裁や洗脳に近かったと思うよ。そのおかげで子供の頃からの友達なんて一人もいないもん。」
「だからオマエさん、初めての場所では異様にテンション低いのか?」
「そうそう、観察が癖になってるのよ。私のなかでは人類皆エネミーだからね。」
「そりゃ友達できねーわな!(笑)」
「でしょ?(笑)」

そして小学校時代の細やかな観察眼や気配りも、中学に入ると反抗心のあいだで揺れ動き、高校では人と関わる煩わしさから不登校という形に変化していきました。そして高校を卒業し美術の道を歩み始めてからは『一匹狼』を気取ることとなるのです。

(PART.2へ続く)