一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.57 「紙の月」

平凡な主婦による巨額横領事件
宮沢りえ冷めた熱演の傑作サスペンス!

面白い! 最後まで飽きることなく、前のめりで観た。しかも、ラストは「えっ!」と言う幕の閉じ方で「ええーっ・・・ああ、ふ~ん、なるほど・・・。まっそういうのもアリかも・・・」という驚きと妙な納得があった。従来のこの手のドラマのラストでないことは確かで、その点も意外性があって満足させられた。

たぶん、この映画で宮沢りえは演技賞総なめだろうな。それほど彼女の演技はすばらしかった! 7年ぶりの映画主演作というが、油の乗った40代の彼女の代表作になることは確実だろう。実は「こんな演技上手だったっけ?」と正直驚いた。「たそがれ清兵衛」以来の白眉な演技を披露して楽しませてくれる。
同時に作品も賞を独占するであろう、傑作の仕上がりだ。

女はしょっちゅう揺れている
彼女の行動にカタルシスを感じる?

お話は平凡な主婦が、銀行で契約社員として働くうちに、ちょっとしたきっかけで銀行のお金を横領していくというもの。そのきっかけというのは、若い男との恋愛なのだが、結局彼女は男と遊ぶための金欲しさだけで大金を横領したのか? という点がこの映画のテーマでもある。そのために映画の最初に彼女の中学校時代の寄付のエピソードが語られる。そのエピソードの続きは劇中でも何度も挿入されるが、彼女の真意は最後まではっきり語られない。

でも、そういうこと、あると思う。もちろん、一歩足を踏み出すかどうかはその人次第だが。ある日、ちょっとだけ、そう、彼女の場合はデパートで化粧品の支払い金額が足りなくて、今集金してきたお金を一瞬1万円だけ借りただけだった。後ですぐに返した。でも、そこから彼女の気持ちが揺らぎだす。「あれっ簡単だね?」と・・・。
女はこういうふうにしょっちゅう揺れているように思う。そんな大層な気持ちも最初はないのだ。ただ、なんとなく。それで意外に簡単で、なんだあ・・・と。

彼女の心の闇はきっと誰にもあるのではないか? いろんなもの変えたい、とか、もう我慢したくない、とか、やりたいことやっていいんだ、とか、みんなやってるよ、とか、抑圧されたくない、とか、理不尽だ、とか・・・・そんなものが時々マグマみたいになって噴きだす。もう自分でもどうにも出来ない。
この映画では、彼女が私たちの代わりにやってくれる。凄いことを。
ラスト、カタルシスを感じた女性は少なくないように思う。

見所多数! 横領の手口、宮沢りえの美しさ…。
見終わって心に残る女のとんでもなさと悲哀

舞台が1994年なので、まだコンピューターも本格的ではなく、銀行の入金や集金、上司のチェックなどアナログで、どうやって、主人公が顧客の金を横領していったかの手口がすごくリアル。銀行のシーンはゾクゾクハラハラさせられて本作の大きな見所だ。宮沢りえの視線ひとつがサスペンスフルで緊張が漲る。
彼女に対峙する上司役の小林聡美もすばらしい! 宮沢りえと小林聡美のクライマックスの対決は息を飲む迫力だ。現場も緊張感が凄かったらしい。

そして主人公が若い男の誘いに答える駅のシーンも秀逸。なにも言葉はないのに、彼らは惹かれあって自然に関係を持つ。それを映像だけで綺麗に表現していて忘れがたいシーンだ。
しかし、宮沢りえは地味な銀行員の制服がよく似合う。
全編彼女は出ずっぱりなので、彼女の美しさをアップでゆっくり堪能できる作品でもある。

さて、見終わってひどく心に残るのは、なんだろう?
私は、やっぱり女は面白い! ということかな?
時々、とんでもないことをする。心のままに。

■11月15日(土)~全国ロードショー
■監督 吉田大八
■原作 角田光代
■脚本 早船歌江子
■出演 宮沢りえ 池松壮亮 大島優子 田辺誠一 近藤芳正 石橋蓮司 小林聡美
 
■126分
©2014「紙の月」製作委員会