香りを聞くとき ―気づきの物語―あなたは今日 どんな響きと共鳴しますか?

香りに誘われる世界 ― 全方向へのアクセス

春爛漫の光の中、桜とともに沢山の花が開きました。
冷え込む冬に溜めていた力が、一気に発現される時期は、様々な命の喜びが溢れているようですね。
これから緑が鮮やかに輝く季節、風に乗って運ばれて来る瑞々しい土の香りも気持ち良く感じられます。

小さな頃から、お香の香りが好きでした。毎月、お坊さまが家に来られると、袈裟や衣から漂う、仄かな香りに惹かれました。
家のお線香と違う香りは、お寺で焚かれた お香の移り香だったのでしょう。
目を閉じて、その香りをゆっくりと味わっていると、とても気持ちが良くて、その上、お経を上げられている間 ― 子どもには長い時間ですね ― 正座している足の痛みからも解放されたのです。

お香の香りは、いつもいるところと違う世界へ誘ってくれるものでした。
目を閉じていても、少し離れた所に座っている母や弟から発している熱感や、微細な身体の動きを感じていたり、窓の向こうから かすかに聴こえる風の音や小さな子どもの声、車が通り過ぎる音も、目の前のお経の音と同じように聴こえています。
そうしていると、いつしか、宇宙から無数の星の営みを観ているようで、自分が いなくなっていました。

時の流れを超えて、空間に満ちる ” 響き “ を、ただ味わっていたのでしょう。
香りは、全方向に広がる意識状態へと導いてくれるようです。

邪気を浄化する香りの “ 響き ”

私たちの周り、この世界は、あらゆる匂いに満ちていますね。
心地良いと感じられるものだけではありませんが、だからこそ、無意識のうちに香りの力に癒されていることも多いと思います。

疲れて帰宅した際、玄関の扉を開けたときの香りは、いつものテリトリーに帰って来た安心感を与えてくれます。
お腹が空いている時の、大好きなお料理の匂いは、単に食欲を増すだけでなく、幸福感まで呼び起こすでしょう。愛しい人の匂いは、ハートチャクラを活性化させてくれる感じがします。また、赤ちゃんの独特な甘い匂いは、母性保護機能を誘発する脳内ホルモンの分泌を促すそうです。柔らかな頭蓋骨が閉じて固くなるまでの数ヶ月、期間限定の匂いですね。
そういえば、深夜の おっぱいの時間は、眠気で朦朧としつつも、あの何とも言えない匂いに癒されていたように思います。

先人たちは、紀元前3000年前のメソポタミア文明の頃から、香料を、日々の暮らしの中で様々に利用して来ました。

季節の花を部屋に飾って来たのは、見た目の楽しみだけではないはずです。
様々なスパイスは、お料理に使われたり、生薬として、今も活躍していますね。
そして、もっと積極的に香りを楽しむための、香原料があります。

花や実、樹木の皮や葉、根の粉末、樹脂など植物性のものと、ジャコウ鹿の分泌物である麝香、マッコウクジラの腸内結石(!)である龍涎香(りゅうぜんこう)などの動物性のものがあり、古くから生薬としても用いられて来ました。
また、植物の芳香成分を抽出した精油は、古代エジプトの頃から広く使われています。

中でも、長い時を経て培われた樹脂は、その結び方や熟成の過程で、自然の魔法が施され、味わい深い香りの差を生み出します。樹のエネルギーが そのまま凝縮されたような香木は、古の商人たちによって運ばれ、洋の東西を問わず、神聖な儀式に欠かせない貴重なものとして扱われました。

仏教では、無量寿経に「香を聞くをもって佛食と為す」とあり、神仏への捧げものとしての意味もあります。
今も、身・口・意の三業を浄める為に、特別な修行や密教修法の前には、塗香(香木の粉)で口や手を浄められています。
在家でも、写経の前に、塗香を使いますね。手や身体に塗ると、確かに浄化される感覚があります。

また、日本では、香りを鑑賞することを独自の美意識によって芸道の域にまで昇華させた、香道があります。
聞香ということばは、まさに、香りの “ 響き ” を聞いて味わうことなのですね。

邪気を浄め、心識を清浄にするとされる香りの力を、先人たちはエネルギーのレベルで知っていたのでしょう。日々、上手に取り入れて、心気や場の浄化に利用していました。
「香気」という言葉は、良い匂いというだけでなく、そのものの持つエネルギーをも表現している言葉ではないかと思います。
人それぞれの体臭は、食べ物や生活習慣の影響が大きいでしょうが、それに加え、その意識状態によって、微細な香気が放たれているかも知れません。

そうであるなら、爽やかで、柔らかな香気の存在でいたいと思うのです。

あらゆる香りに満ちた この世界の中で、どんな香りの “ 響き ” に共鳴しますか?
そして、あなたは今、どんな香気を放っていますか?