「それでも、生きる」……スマトラ海峡から3,150キロで遭難した男が『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』  

“All is Lost”――すべてが失われた
その時人は何を思うか……

舞台は大海原。登場人物一人。台詞なし。
広大な海にたった一人取り残された男。彼はなぜ諦めなかったのか?
そして、なぜこの映画は人々の心を捉えて離さないのか?

文明からたったひとりで遠く引き離され、大自然の猛威にさらされ、助けを呼ぶ声はどこにも届かない――“All is Lost”――すべてが失われたとき、人はそれでも希望を持ち続けることができるのだろうか?
2013年10月に全米で公開されるや、賞賛の声を集め、賞レースへの参入も有望視されている『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』は、そんな人間の命の可能性に肉迫した感動の人間ドラマ。

人生の晩年を迎えたその男は自家用ヨットを駆りインド洋を航海していた。しかし、突然ヨットが海上の浮遊物に衝突するという事故に見舞われ運命が一変する。
始まりは浸水、そして無線の故障、さらには悪天候……自分はいまどこにいるのか? 食糧は、飲料水はもつのか? そして何より助けはやってくるのだろうか? 嵐と闘い、飢えや渇きと闘い、孤独と闘う日々。時間の経過とともに生存の望みは薄れ、運命に見放されようとしたとき、男は初めて自分自身の本当の気持ちと向き合う事になる。
そして、一番大切な人に向けて読まれるかどうかもわからない手紙に、偽りのない気持ちをつづり始める……。

舞台は陸地さえ見えない、どこまでも広がる大海原で、登場人物はたったひとり。始まりから終わりまでそれが徹底して貫かれた、独創的な設定によって語られるのは、大自然と向き合い、その怖さを知らされると同時に、それでも強くあれと思い続ける男の魂の軌跡だ。彼は老いたとはいえ体力や気力はあり、また航海の経験や知識もそれなりに持ち、危険に直面した際の対処法も知っている。

男はそれらをすべて活かして、大海原で次々と起こる不測の事態に対処し、ギリギリまで生存の可能性に懸ける。そこには動物的な生存本能を見て取ることができるし、大切な誰かのために生き延びようとする、きわめて人間的な意思の力をもうかがわせる。どこかで決定的な過ちを犯したかもしれないが、それでも今できることを必死にやるしかない――これはまさに“生きる”ことに対する人間の意欲を極限まで突きつめた物語であり、そして愛する者の存在がさらに自分を強くする様を描く。

回想や独白、ドラマチックな演出といった、時としてぜい肉となってしまうものを徹底的にそぎ落とし、あるべきものを堅実に描いたからこそ、このテーマは深く鋭く見る者の胸に突き刺さってくる。2020年のオリンピック開催という明るい話題に沸き、まさに新しい未来に向かって歩もうとしている日本の観客には、本作はより強く訴えかけて来るものがあるのではないか?

人はなぜ未知の体験を求めるのか?
なぜ愚かな過ちに気づかないのか?
なぜ生き続けようと必死になれるのか?

すべての答えは、この映画の中にある。

 

命の終りを自覚し
初めて自分自身の本当の気持ちと向き合う

スマトラ海峡から3,150キロ沖。“すべて失った……すまない”という男のつぶやきが響く……。

ことの起こりは8日前。インド洋をヨットで単独航海中の男は水音で眠りから覚める。気が付けば、船室に浸水が。海上を漂流していたコンテナが激突し、ヨットに横穴が開いてしまったようだ。航法装置は故障し、無線もラップトップも水浸しで使い物にならない。しかし、この災難は始まりに過ぎなかった。

雨雲が迫り、雷鳴がとどろき、やがて襲いかかる暴風雨。嵐が去った後に、男は過酷な現実に直面する。ヨットは決定的なダメージを受け、浸水はもはや止めようがない。ヨットを捨てることを決意した男は食糧とサバイバルキットを持って救命ボートに避難する。ここはいったいどこなのか? 助けはやってくるのか? ボートへの浸水、サメの襲撃に加え、飲み水や食糧は底を突き、危機的な状況は続く。ギリギリまで踏ん張ったものの、望みは確実に断たれようとしていた。

運命に見放されようとしたとき、男は初めて自分自身の本当の気持ちと向き合う事になる。
そして、一番大切な人に向けて読まれるかどうかもわからない手紙に、偽りのない気持ちをつづり始める……。

 

『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』
2014年3月14(金) TOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテ ほか全国公開
http://allislost.jp/

 © 2013 All Is Lost LLC
配給:ポニーキャニオン
監督・脚本:J.C.チャンダー『マージン・コール』
出演:ロバート・レッドフォード