一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.17 妹尾河童のミリオンセラー原作を映画化「少年H」

ここに描かれた家族はかつて
日本中にあたりまえにいた家族なのだ……。

神戸の、ある仕立て屋一家の戦前、戦中、戦後の姿を描く。仕立て屋として確かな腕を持ち、実直でユーモアのセンスもあり、自分なりの信念がある心優しい父親。熱心なクリスチャンでハイカラ、気の強さも半端ない厳しい母親。そしてタイトルロールを演じる、絵が上手で好奇心いっぱいのヤンチャ坊主、妹尾肇こと少年H。妹はオカッパ頭が愛らしい、しっかり者だけど甘えん坊。

この家族が激動の時代に翻弄されながらも、しっかりと生き抜いていく様子は、観ていて何度もうるうるさせられた。そして、観終わってなんとも言えない清々しさに包まれた。戦前の日本にはこんな美しい、強い絆で結ばれた家族がたくさんいたのだ。ただ、支えあって慈しみあって、大事なことを、身を持って教えて、話をして、笑い合って、ご飯を一緒に食べて……。それだけなのに、なんて懐かしい思いがするのか。なんて清らかなものを観た気分になるのか。

「この時代に帰りたい」って生きてないけど(笑)、そう思った。
これは「風立ちぬ」を観た時にも思ったことだ。昔に帰りたいなんて言っててはだめだよ~と分かっちゃいるが、本作は痛くそう思わせる「かつての素晴らしい日本の家族」の見本が描かれている。しばし、郷愁に浸る心地良さを堪能して欲しい佳作である。

水谷豊の父親は絶品!! さすが、のひょうひょう演技
子役も脇も上手で奇跡のアンサンブル

なんといっても素晴らしいのが父親役の水谷豊である。巧い!
芝居にキレがある。説得力がある。かすかな狂気もある。久々に「熱中先生」の頃のあの独特の走り方も垣間見れて胸が躍った(笑)。そして母親役の伊藤蘭。自然。この人、芝居上手だったのね。
肝心の子役も良かった。ふたりとも兵庫県出身で関西弁が自然なのも演技が達者なのも花丸の出来。とくに妹役の花田優里音ちゃんのあどけない顔立ちとワカメちゃんカットが私はお気に入りだった。あと、意外に昭和ものが似合うんじゃないかと認識を新たにした小栗旬が特筆の出来!また、空襲シーンで火の海の中をHと母親が逃げるシーンや焼け跡にHと父親が立ち尽くすシーンなど、物凄い迫力とセットのリアルさで、共に見ごたえのあるシーンになっている。

私たちはどう生きていくべきか?
自らの進退を問われるようなスピリチュアルな教え

本作は16年前の妹尾河童のミリオンセラーの映画化だが、16年たった2013年の今、映画化されたことの意味を考えさせられた。私たちは戦後どうなってしまったのか? 戦後68年たって、何が失われてしまったのか? 今こそ、私たちは自らの生き方を考えなくてはならない岐路に来ている。そう思い知らされるようなスピリチュアルな教えがいっぱいの一作である。

 

「少年H」
2013年8月10日(土)全国東宝系ロードショー
巨匠・降旗康男監督の演出で水谷豊&伊藤蘭、初“夫婦役”で28年ぶり共演!

【キャスト・スタッフ】
■出演/水谷豊、伊藤蘭、吉岡竜輝、花田優里音、小栗旬、國村隼、岸部一徳 ■監督/降旗康男 ■原作/妹尾河童
(C)2013「少年H」製作委員会
http://www.shonen-h.com/ 

 

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