注射と飲み薬、どっちを選ぶ?~薬の剤形には特徴がある

副作用の少ない薬の選び方

私が幼稚園に通っていた頃、近所にかかりつけの診療所がありました。その診療所で、今でも記憶に残っている印象的な出来事があります。ある日、高熱を出した私は、いつものようにその診療所に連れて行かれました。症状自体は軽かったようで、診察時間も短かったのですが、診察後、医師が処方箋を記入する際、私にこう尋ねました。

医師:「薬を出すけど、注射と飲み薬、どっちが良い?」
私:「……注射をお願いします。」
医師:「変わった子だね! 普通は飲み薬って答えるよ」

確かに子供にとって注射ほど嫌なものはないので、飲み薬を選択するのが普通なのでしょう。しかし、そのときの私は、「飲み薬は家に帰って何度も飲まなければならないけれど、注射ならば痛いのを我慢すれば1回で済む」という安易な考えから注射を選択しました。結局、注射をしてもらい、帰宅したのですが、ここでひとつの疑問が思い浮かびました。
「同じ効果の薬なのに、なぜ飲み薬と注射という違った剤形があるのだろう?」

後に大学で学んだのは、「同じ成分の薬でも剤形によって特徴が異なる」ということです。飲み薬と注射(静脈注射)との大きな違いは、「肝臓を通過するかしないか」です。一般的に、飲み薬は主に小腸で吸収され、門脈という血管を通じて肝臓に送られ、その後、心臓を経て全身へという経路を辿ります。

肝臓は体外から入ってきた異物を分解する働きを持つため、飲み薬も部分的に分解されます。一方、注射(静脈注射)の場合、薬は肝臓を経由せずにダイレクトに血流に乗り、一気に全身に送り込まれるため、効き目が早いのが特徴です。そのため、救急医療の現場など、スピードが重要視される場面では注射がよく使用されます。

こう考えると、注射のほうが薬としての効果を発揮しやすいように思えますが、薬には副作用が存在します。肝臓が薬を分解する作用というのは、体にとっての許容量を維持するために備わっている防御システムのひとつのように思えます。

仮に今、どうしても薬を飲まざるを得ない状況で、注射と飲み薬の選択を迫られた場合、今の私なら、おそらく飲み薬を選択することでしょう。「栄養は口から摂る」。これが生物にとって自然な形のような気がします。