一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.4 無実の罪を受け入れ耐える男に何を見るか? 「偽りなき者」

小さな嘘から発展する大きな事件

これはちょっとすごい映画である。ショッキングなラストもそうだが、観ている間中胸が痛くて同時にイライラハラハラした。感情が揺れまくって、その意味では感情の心地良い運動をさせてもらったのだが、見終わって「・・・・」と深く考えてしまった。しかし、主人公ルーカスの強さには感動させられた。これほどに強い人の中には、必ずや信仰があるのだろうと改めて思った。

事件は静かに起こる。離婚と失業を経て、今は幼稚園の教師として働くルーカスは、親友テオの幼い娘クララの面倒をよく見ていた。そんな優しいルーカスにクララは懐き「好き」だと言う気持ちを伝えるが、ルーカスはやんわりと拒否。傷ついたクララは深く考えず園長に嘘をついてしまう。「ルーカスにいたずらされた」と……。
幼い子供の作り話でルーカスは町中から凄まじい非難と迫害を受ける。職も恋人も親友のテオまで失い、「変質者」と罵倒され、スーパーでの買い物も拒否され、殴られ、唾を吐かれる。

彼は無実なのに、ほとんど弁明しない。この過酷な状況を受け入れるのだ。大人たちは皆クララの言葉を信じ、ルーカスにこれでもかと辛く当たる。どんどん状況が悪くなっていって、一体どうなるの!? とこちらは心穏やかじゃない。クララが登場する度に「お前があんな嘘つくからじゃ! ええいっ早く嘘だったとお言い!」とクララ憎しでイライラ(笑)。しかし、ルーカスは耐えに耐える。しかも、何をされようと毅然と胸を張って主張し、町の皆が集まるイブの日の教会にまで正装して出かけて行っちゃうのだ。自分は潔白なのだから、教会に行くのは当然なのだというように。「おおっ!」これには驚いたが、彼の瞳はどこまでもクリアに澄んで身の潔白を現していた。そして、その瞳によって道は開かれるのだが……。

 

神は全てご存知である。いつも見ていてくれる

この人の強さは「自分は無実である。そして、そのことを神は全てご存知である。だから、自分は卑屈になることなく、いつものように振るまえばいいのだ」という信念と信仰に裏打ちされたものだと思う。
人は、良いことをしたら人に知って欲しいと思う。誰かに褒めて欲しいと思う。でも、大丈夫。誰も見てなくても誰も褒めてくれなくても、確実に神は全て見てくれている。そして、それはそのままその人の「徳」という貯蓄になる。この貯蓄は今生だけのものじゃなくて、来世でも使える。

この映画のラストは、「やはり人生は困難なものだ」と心を震えさせるものだが、ルーカスの忍耐は、いずれ報われ、高く評価されるものだろう。神様的ポイントはとても高いと見た。

何があろとう「神様は見ていてくれる」そう思える人は強い。
そのためにも誠実に生きていかなければ(悪いことも見ているからね)と、自身の生き方を問い直されるような佳作である。

「偽りなき者」 
3月16日(土)~全国ロードショー
監督・脚本/トマス・ヴィンターベア 脚本/ビアス・リンホルム 出演/マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、アニタ・ヴィタコプ、ラセ・フォーゲルストラム
2012年 デンマーク
(C) 2012 Zentropa Entertainments19 ApS and Zentropa International Sweden.公式サイト http://itsuwarinaki-movie.com/

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