「2012年は“金の年”」。鏡リュウジ氏が金環日食・ヴィーナストランジットを語る

今年2012年は天文ファンの間では「金の年」といわれています。多くの珍しい天文現象が続けて起こり、さらにそのいくつかに「金」の文字がついているから。その代表格が5月21日に起こる金環日食。これは皆既日食の一種ですが、ふだんより月が遠い位置にあるために太陽を月が完全には隠せずに、日輪の外縁が輝くという現象。
伝統的な占星術では太陽が隠される日食はあまりいい意味をもっていませんでした。今回の日食は双子座の第1デークで起こり、ここは木星が支配するエリアなので聖職者や商人、また機械工などの間での紛糾を暗示するというのが17世紀の占星術のテクストにはあります。
ですが、日食がいつもいつも悪い、ということではないと思うのです。日食は太陽が欠ける現象ですがそのあと必ず光が戻ってくるということを忘れてはいけません。何かが生まれ変わるためには、象徴的な意味での「死」が必要なのです。錬金術でも「黒い太陽」は新しい魂が再生する前段階とされていました。日食は歴史の流れのなかの一種のマイルストーン。ここで新生を果たすきっかけをつくるチャンスでもあるとぼくは思います。意識を切り替えるチャンスとして活かしてはいかが。

☆金星の太陽面通過
金環日食についで、今年起こる「金の」天文現象は金星の太陽面通過です。これも非常に珍しい現象で、金星が太陽面の上を黒い点になって通過していくという現象。
ニューエイジ的な文脈のなかでは、この金星の太陽面通過に大きな意味を持たせようとしている動きがあるようですが、伝統的な占星術の伝統のなかでは、ぼくの知る限り、この現象にたいして特定の解釈を与えているものはありません。

ただし、一般的な占星術の知識を応用することは可能です。伝統的な占星術ではある惑星が太陽のそば8度半以内にあると、太陽の力がその天体の力を「焼きつくして」(コンバスト)効力を失わせるといいます。しかし、太陽と天体がもっと接近して17分まで近づくとその天体の力は大いに強くなるとされるのです。これは専門用語で「カジミ」といいます。金星の太陽面通過はもちろん「カジミ」ですから愛の星である金星の力が強くなると考えられるのですね。
そこでこの現象は、もう一度人々が愛について考え直すべきだと告げているのではないでしょうか。愛や美、価値、そうしたものを振り返るチャンスですね。