挑戦者の探求心と、修行僧の祈りと
辺りを明るくするようなエネルギッシュな浅野さん。
演じるのは、中村繁之さん演じる米倉金善とともに、汚染地域に足を踏み入れて有用微生物群の散布を実行する今泉智役だ。
米倉が内に秘めた想いの深さを感じさせる「静」なら、今泉は対照的な「動」のイメージである。
—— 演じられる「今泉智」像について教えてください。
浅野 僕自身、実際の今泉さんという方には、ものすごいエネルギーを持った救世主のようなイメージを持っています。
事故が起きた後、市街地では国による除染が行われましたが、今泉さんたちの住む森林地域は除染の対象外となりました。だから自分たちでなんとかするしかない。警察の阻止も押し切って、状況をなんとか打開しようと行動するんです。強い使命感を持って、ワラにもすがる思いの中から有用微生物と出会い、現在に至る人です。
想いをそこまで行動に移せるという、とんでもないエネルギーを持つ方です。
—— ご本人の気持ちはどう想像されましたか。役作りの工夫についてもお願いします。
浅野 僕はちょっと見た目にご本人と似ている雰囲気があるんですよ。スキンヘッドとかね。
ですが、あくまでモノマネではなく、現場で起こっていることをじかに感じて演じるというのが僕のスタイルですし、監督の指示でもあったので、今回もそうしました。
内面については想像するというより、演じるうえでそうせざるを得ない行動をご本人がとっていらっしゃるので、その追体験をしている感覚でした。セリフも、台本を目で追うのではなく、自分の口から発語した瞬間、「これは本当に優しくてピュアな人じゃないと言えない言葉だ」と理解できたんです。
—— 身体を通して感じたものがあると。
浅野 演じていくなかで、今泉という人物は、行動の結果を求めるより先に、まず過程を楽しんでいるような感覚がありました。もちろん目的は山の回復であり、散布自体は非常に過酷な作業ですが、その過程をすごく楽しんでるような。監督からも、今泉というキャラクターは非常に探究心旺盛で、挑戦者でもあり、修行僧のような部分もあるという人物像を伝えられていました。ご本人の中に確信があって、きっとそこに突き進んでいるんでしょうね。
毎日毎日、微生物の入った液を、ひたすらホースで山の中にまき続けるというのは途方もない作業です。
それも何か月も。今日まさに山の中での散布シーンを撮影してそれを実感しました。
その情熱はどこから来るんだろうか。
もしかしたら、誰かに喜ばれたいとか皆のためとか思ってないんじゃないかって思うぐらい、自分自身楽しんでいらっしゃるような感覚がありましたね。
それは、これからどうなるんだろう、という探究心でもあるし、「放射能の値よ、下がれ、下がれ」という修行僧の祈りでもあるし。
—— 撮影を通じて感じたことは。
浅野 こんな凄いことをしていらっしゃる方がいるという事実がショッキングでした。
日頃から、僕は俳優として、どんな役に対しても新鮮に感動するということを大切にしているのですが、それにしても今回は衝撃でした。
「世の中とんでもない人がいるんだな、僕も負けないように生きていきたい」と思えた出逢いとなりました。
白鳥哲監督の最新作、映画『蘇生Ⅱ~愛と微生物~』インタビュー全4回
第1回 白鳥哲監督
https://www.el-aura.com/tetsushiratori20190118/
第2回 比嘉照夫(ひが・てるお)先生役 前田耕陽さん
https://www.el-aura.com/tetsushiratori20190120/
第3回 米倉金善(よねくら・かねよし)役 中村繁之さん
https://www.el-aura.com/tetsushiratori20190128/
第4回 今泉智(いまいずみ・さとし)役 浅野彰一さん
取材協力:株式会社 OFFICE TETSU SHIRATORI
http://officetetsushiratori.com/
取材・文:桜倉麻子