一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.77 「おかあさんの木」

戦争を題材にした映画は多いが、この日本映画は息子を失った母親を描いたもの。「おかあさん」の深い愛を誰もが感じる作品。

戦争で息子を次々と失う母親の慟哭
今、この映画を日本人は観なくてはならない!

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今読んでいる本(「らくらく五次元ライフのはじまりはじまり」木内鶴彦&中丸薫著)の中で中丸さんが、「これからの世界を行き抜くために日本人は心の浄化をしていかなくてはならない。
それには自分の人生を5年ごとに区切って見直すこと。
難しいな、と思う人はまず母親が今まで自分にやってくれたことを書き出して、反省、感謝することから始めて」と書いてらして、「ああ、そうだな。私が生まれてから母親がしてくれたことって、当たり前といちいち感謝してなかったよな」としみじみ思った。

私は母親を選んで生まれてきたので、今生でカルマを返さないといけないのだが、まだ返すことは出来ていない。
誰しも母親がいる。
子を思わぬ母はいないと思う。
また母を思わぬ子も。
前世のカルマで憎しみあう親子もいるが、憎しみも裏返せば愛である。
私の大好きな本である「死んで私が体験したこと」(ベティ・イーディ著)によると、「祈り」の中でも母親が子に対する祈りが一番強力で、太い光の柱として地球から届くそうである。
そしてそれは大抵、叶えられる。

当たり前じゃない母親の大きな愛に感謝
泣いた後で自分の母親のことを考える

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本作は辛い話だが、母の愛というものを再確認できる素晴らしい日本映画だ。
すべての芸術作品はそうだと思うのだが、今、この題材で映画化されるということには重要な意味がある。
この映画で描かれる内容が、今の私たち日本人に必要なことなのだろう。
本作の原作は教科書で永年取り上げられてきた有名な児童文学という。
原作は創作であるが、きっとこういう何人も戦争で息子を失った母親は戦時下にはいたのだろう。
そして、今も世界中にいるのだ。
私は本作で号泣した。
号泣したあとで、考えなくてはいけないことがある。
自分の「母親」のことである。

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お話はとてもシンプルだ。
想いを寄せる人と結婚し、7人の男の子に恵まれ幸せな日々を送っていた主人公ミツ。
しかし突然夫が亡くなり、太平洋戦争の始まりと共に成長した7人の子供たちは次々と戦場に送られることになる。
そして一人一人と戦死していく。
ミツは遺骨も帰らない息子たちがきっと帰ってくると、庭に木を一本一本植えていく……。

は~っ。
母親は戦争に行かせるために男の子7人産んだわけじゃない。
お国のためにと全員戦争に行かされる悲劇。
最初はミツもお国のためと黙っていたが、四男まで戦場に行き、死に、ついには五男の五郎が召集されることになった時、駅でミツは五郎の足にすがりつく。

ミツの代わりに私たちは観客は号泣する
「五郎、行かないで!! 」ミツの心の叫びが響く!

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「行かないで! 五郎!! 」そう口には決して出せないがミツの行為は「非国民」の最たるもので、ミツは息子の前で憲兵に殴られ蹴り上げられる。
それでも五郎の足を離さないミツ。
五郎は蹴られる母に向かって悲痛に叫ぶ「おかあさん……!!」。
もうこれは号泣である。
その後ミツは警察で厳しい尋問を受けることになるが、ぐっと唇を噛んで宙を睨み、眼には涙を一杯ためて、どれだけ罵倒されようと沈黙し続ける。
またまた号泣。
ここで堰が切れたように泣いたのは私だったが、ミツが泣いていたのだ。
ミツの代わりに観客である私がむせび泣いた「五郎、行かないで!」と。
ここらあたりからもう、涙涙……。
しかし、無理に泣かせるというあざといものではなく、自然に泣けてくるのだ。
もう「蛍の墓」状態である。泣かずにはいられない。

鈴木京香、熱演。たぶん女優賞を多数獲ることだろう。
細かいことだが、惜しむらくは歯の白さと爪の綺麗さが気になったことか。
田舎の農家の主婦役だからホワイトニングした歯をくすませるとか、爪に泥を入れるとか、そこまで日本の映画界は要求してないのだろう。
しかたない。
ふと「楢山節考」で坂本スミ子が役のために歯を折った、ということを思い出した……。

さて、映画の終わりは精々しいものである。
一篇の詩のようなラストショットにミツの、多くの母親の悲しみが迫ってくる。
「おかあさん」。
間違いなくこの世で強いパワーのある言葉のひとつであろう。

■6月6日(土)~全国ロードショー

■監督・脚本 磯村一路
■原作 大川悦生
■出演 鈴木京香 志田未来 三浦貴大 平岳大 田辺誠一 奈良岡朋子
■113分

(C)2015「おかあさんの木」製作委員会