中世に考案された癒しのオルガンが現在の技術で実現

猫オルガンといい、Perfumery Organといい、中世では実現できなかったものが、「現代の技術」があるからこそ実現し、当時考えられていたような「癒しをもたらす」というのは、非常に興味深いといえるでしょう。

【人を癒す様々な楽器】

「音楽が人の心身を癒す」というのは、Trinity読者の皆様ならば、すでに常識ともいえるかもしれません。「楽器の起源がそもそも宗教的なものだった」ということを考えると、古来から「音というのは、とてもスピリチュアルなものだった」わけです。それだけに、人を癒すためにさまざまな楽器が考案されたのも当然といえるでしょう。数多く考えられた楽器の中には、「奇想天外で、構想だけはあっても実現しなかった」というものもあります。19世紀に考案された「猫オルガン」もそのひとつ。

 

【猫を使った人を癒す楽器】

この楽器は、音楽を奏でるというよりも、「治療を目的」として考案されたといわれています。17世紀の学者であり、イエズス会の司祭でもあった「アタナシウス・キルヒャー」という人物がいます。彼はヒエログリフの解読や、伝染病に関する研究など「幅広い分野で功績を残し」、20世紀になってから、再評価されるほどの「天才的な人物」でした。そんなキルヒャーによる『音楽汎論』という書籍に、「猫オルガン」が掲載されています。それによると、この楽器は「王様の憂鬱をはらうために制作された」とされています。さほど昔ではないということなので、おそらく「16世紀」ぐらいに考えられていたのかもしれません。また、18世紀には、キルヒャーと同じドイツ人の医者が「物事に集中することができない患者」に、強制的に猫オルガンを聞かせることで、注意力が否応なしに働き、それによって常態に復すると考えたという記録も残っています。

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【動物虐待装置だった猫オルガン】

「猫の鳴き声が癒しをもたらす」というのは、猫好きの方ならば実感しているかもしれませんが、この猫オルガンは、そんな猫好きの方からは大反対されるような仕組みとなっています。キルヒャーの記述によると、色々な大きさの猫を集めて、それらをいくつもの溝がついた箱に、大きさの順に入れて、尻尾が穴から出るようにします。その穴の上に鍵盤と連動した針を設置するのです。つまり、「鍵盤を叩くと針が猫の尻尾を突き刺すことで、鳴き声というよりも悲鳴を上げさせて演奏させる」という、「動物虐待装置」だったのです。

さすがに、この通りのものが実在していたという証拠はなく、理論だけが考えられたのではないかといわれていますが、イタリアでは猫の尻尾を引っ張ることで鳴かせる「キャッターノ」という似たような装置があったともいわれていますし、アメリカで似たような装置を作ったところ、猫が勝手に泣きわめいて音楽どころではなかったという話もあります。結局のところ、猫オルガンが憂鬱をはらうために活用されるようになったのは、「21世紀」になってからのことでした。

 

【科学の力で実現した猫オルガン】

2010年にイギリスの「チャールズ皇太子」がガーデンパーティを開いたときに、猫の鳴き声のでるおもちゃを使って、猫オルガンが再現されました。動物虐待ではなく、機械的に猫の音を出すシステムによって、ようやく楽器として演奏されることが可能になり、皇太子をはじめ、「多くの人を楽しませた」ということです。

 

【音と香りを奏でるオルガン】

このように、遙か昔に考えられた楽器が「時を超えて再現される」というケースは、つい最近もありました。19世紀にイギリス人の調香師である「ピエソ」という人物が、「香階」というものを発案しました。これは、「音階と香りを対応させるもの」であり、彼は「7オクターブ48種類の香料」を並べた、調香台である「オルガン」を作りました。これは、香料がパイプオルガンのパイプのように並んでいるものであり、実際に音を出せるものではありませんが、名前からもわかるように、ピエソは本当に音と同時に香りを出すことを考えていたようです。

残念ながらピエソは、その構想を実現することはありませんでしたが、それから2世紀たった現在、本当に音と香りを両方出すことの出来るオルガンが完成しました。「Perfumery Organ」と名付けられたこの楽器は、ピエソのオルガンと同じように香料を配置し、鍵盤を叩くことで、瓶に風が送り込まれ、それによって瓶口に口をつけて息を吹くことで音がでるのと同じ原理で音がでます。それと共に、瓶の中に入った香料が風によって流れ出すという仕組みになっているのです。

 

【癒しをもたらす音と香り】

基本的に音と香りの対応もピエソのものを使ったということですので、曲によって調和することもあれば、不思議な匂いになったりもしたということですが、実際にこの楽器を現場で聞いた人によると、「音と香りが同時に漂ってくるというのは、とても不思議な体験をもたらした」ということです。ちなみに、世界に一台しかないこのオルガンは、「レノアハピネス」という柔軟剤の宣伝のために開発されたものですので、実際に楽器を弾いているところを動画で見ることが可能です。

香りは動画からは伝わってきませんが、独特な音色と香料の入った瓶がでたり入ったりするという、なんともアナログでレトロな雰囲気から、「魔法の道具」のようにも見えてきます。

前述の猫オルガンといい、Perfumery Organといい、中世では実現できなかったものが、「現代の技術」があるからこそ実現し、当時考えられていたような「癒しをもたらす」というのは、非常に興味深いといえるでしょう。時として、「スピリチュアルな癒しと科学技術は相対するもの」のようにいわれることもありますが、こうしたケースを見ていると、それらがうまく融合することでこそ、さらなる癒しへの道があるように思えてなりません。

 

Healing instrument has been revived in modern times.
Cat organ and Perfumery organ.